World Joker

94話 傘を届けに



 

 

 
モルダバイト城下。こちら、コハク。

 

 

「雨・・・か」

 

 

オニキスに半分押し付け、休む間もなく働いても、依頼はなかなか減らなかった。

「でも、今日中に買い出ししとかないと・・・」

買い出しとは、コスプレ用の布地や糸・・・諸々だ。明日は店の休業日なのだ。

予定を詰めて、モルダバイト城下に寄ったところで、雨に降られた。

「ヒスイとジストに傘持たせるの忘れちゃったな・・・」

夕立ちなので、すぐに止むのはわかっていたが・・・

「届けに行っちゃおうかな〜・・・学校での様子も気になるし」

傘を届けに。会う口実にはもってこいだ。

「よしっ!」

即決。さすがに行動が早い。

手芸店ではなく、雨具を扱う店で折り畳みの傘を2本購入。

激しいスコールの中、コハクは愛するヒスイの元へ向かった。

 

傘差し飛行・・・そして。

 

たまたま降り立った場所が、体育倉庫の前で。

すぐに、ヒスイがそこにいると気付いた。

「ヒスイ」「お兄ちゃん!!」

扉を開けると、奥のマットにヒスイが座っていて。

「傘、届けにきたよ」「うんっ!!」

コハクに駆け寄り、しっかりと抱きつく・・・いつもより若干甘えっ子度が高い。

「おにいちゃん〜・・・のどかわいた」

 

 

 

 

血を与えれば、エッチは当然の流れだ。

 

「こういうところでするのもいいね」

「あ・・・ん・・・」

マットの上。キスをしながら、ブラのホックが外され、できた隙間にコハクの右手が入ってきた。

「んぅっ・・・」

乳首を優しく弄られ、じわんじわん・・・膣口が熱くなる。黒のパンツに濃い染みができた。

「おにいちゃ・・・あ・・・のね」と、ヒスイ。

「ん?」

「さっき・・・ジストが・・・いっぱい“すき”っていってくれた」

揉まれる快感、その一方で純粋に顔を綻ばせるヒスイ。

「・・・そう、良かったね」

コハクは微笑み、ヒスイの乳首を軽く捻った。

「あっ・・・ん・・・いくつになっても・・・そういってくれるのって・・・なんか・・・うれしいね・・・はぁ・・・ん・・・ぅ・・・」

ヒスイの口を塞ぐキス。そのまま舌を押し込むコハク・・・

「・・・・・・」

(その“好き”は、ヒスイとこういうことがしたいっていう“好き”なんだってこと、教えるべきなのかな・・・ジストは望んでないと思うけど・・・)

「ん・・・お・・・にい」

ヒスイの唇がキスに抗う。コハクのシャツを引っ張り・・・怒っている。

大概のことに鈍感なヒスイだが、キスに関しては敏感で。

集中力に欠けたキスは見抜かれてしまうのだ。

「ごめん、ごめん」

コハクはキスをしなおして。

 

 

「・・・中、ごしごし、しようか?」

 

 

こくこく。ヒスイが頷く。

ヒスイにとって、ペニスの挿入は、大好物のおやつを貰うのと同じような感覚なのだ。

与えられれば、与えられただけ、食してしまう。

しかも吸血直後なので、一段と膣が飢えていた。

「あ・・・」

パンツを脱がされ、高まる期待。

小陰唇が左右に美しく開き、その奥に蜜を湛え・・・ペニスを呼び込もうとしている。

「じゃあ・・・挿れるね」

「んっ!んん・・・っ!!」

ぷちゅ・・・ぐちゅっ・・・ちゅっ・・・ぐちゅちゅちゅ・・・

亀頭が蜜を吸いながら、深く潜り込んできた。

「んあっ・・・!!」

子宮口にキスを受けたあと、開脚中の両脚をしっかりと押さえられ。

希望通り、膣内をごしごしと擦られる。

「あ・・・あぁ・・・あぁん・・・」

「ごしごし、ごしこし・・・」

声をかけながら、小刻みに腰を動かすコハク。

「あ・・・あぁ・・・」

にゅるにゅる・・・にちゅにちゅ・・・にちゃにちゃ・・・

「あ・・・あ・・・あ、ふぁ・・・」

言葉通りの刺激だった。「ごしごし」という、コハクの掛け声にまで興奮し。

「んぅ・・・ぁ・・・あぁ・・・ん」

ペニスに磨かれた膣壁は・・・ヌルヌルだ。

「あっ、あ・・・!!」

ぴくんぴくん、快感の震えが止まらない。

ヒスイはマットの上であることも忘れ、口から唾液を、膣から愛液を溢れさせた。

「あ・・・は・・・おに・・・ちゃ・・・」

「よしよし・・・」と、乱れたヒスイをあやすコハク。

ヒスイが両腕を伸ばしてきたので、背中に腕が回せるよう上体を屈め。

「おにいちゃ・・・」

「ん?」耳を傾け、ヒスイの声を聞く。

「も・・・い・・・」と、ヒスイ。

「ヒスイのココは、満足した?」

ズボズボ・・・ペニスを出し入れしながらコハクが尋ねると。

「んっ!!んん・・・!!」

こくこく。ヒスイは強く頷いた。

「それじゃあ・・・」

「あっ!あっ!あぁ・・・っ!!!あっ!あっ!あ・・・!!」

巧みな腰使いで、ヒスイを絶頂へと導く最中・・・

 

 

「ヒスイ・・・愛してるよ」

 

 

コハクは、ジストとは別の言葉で愛を伝えた。

(ヒスイに横恋慕する男は、いたぶるに限る・・・んだけど)

コハクが本当の父親ではないことを知ったあとも、ジストは変わらず“父ちゃん”と慕い。
夫婦の愛とセックスを応援してくれた。

(正直すぎるっていうか・・・ジストはどうも恋敵とは思えないんだよなぁ・・・)

そんなジストが懸命に残したであろう言葉を、この場で上塗りするのも大人気ないと考える・・・コハクにしては珍しく寛容だ。

愛を告げたのが、トパーズやオニキスなら、こうはいかない。

 

ヒスイの耳に残っている、ジストの“好き”を消さないように。



「愛してる」と、もう一度言って、口づける。

それから、マットの上のヒスイに激しく腰を叩きこんだ。

ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!雨音と競うようにして、体育倉庫に愛の調べを響かせる。

「っあ・・・!!あ!!!あああ・・・っ!!おにいちゃ・・・ぁっ!!」

 

 

 

その頃・・・ジストは。

 

雨の中をひた走り、いつの間にかサルファーに追いついていた。

サルファーはちょうどタンジェと合流したところで、一本の赤い傘の下にいた。

ジストを見るなり、「何だよ」と、サルファー。

「泣いたお前が悪いんだからな」ムスッとした顔のまま、そう吐き捨てた。

「泣いた?オレが?え?いつ???」

身に覚えがない。現に今だって、泣いてなどいないというのに。

「バーカ、寝てる時だよ」

サルファーが言うと、タンジェも隣で相槌を打った。

「・・・もしかしてオレ、ヒスイ〜とか、言っちゃってた?」

かぁぁっ・・・赤くなる。ヒスイ似のジストは、同じく寝言も多いのだ。

「お前、無理してるだろ」サルファーが言うと。

「してないよっ!」ジストは反論。

毎回同じようなことで喧嘩になっている。

「いい加減諦めろよ!あの女は、お前を幸せにはしない!僕は絶対認めないからな!!」

 

 

 

「頭冷やせ!」最後にそう吐き捨て、サルファーはタンジェと共に帰っていった。

ジストはひとり、雨空の下。

「・・・・・・」

恋心を、スピネルにもサルファーにも諌められ。さすがに落ち込む。

相手が相手なだけに、二人とも、心配してくれているのだとわかってはいるが。

兄弟に理解してもらえないのは、思った以上に辛かった。

「そんなに悪いことなのかな・・・」

 

 

ただ好きでいることが・・・こんなにも難しいなんて。

 

 

「・・・・・・」

(オニキスのおっちゃんのトコ、弟子入りしようかな・・・)

詳しくは知らないが、片想いの大先輩であることは間違いない。

(片想いの極意とか、教えてくんないかな・・・)

そんなことを真剣に考えながら、雨に打たれていると。不意に。

落ちてくるはずの雨粒が遮られ。振り向くと、傘を持ったコハクが立っていた。

 

 

 

「父・・・ちゃん」

コハクとの顔合わせ。気まずいことこの上ない。

「傘をね、届けに来たんだ。夕立ちだから、すぐに止むと思うけど、念の為・・・ね」

「あ・・・ありがと」

ジストはコハクと目を合わせずに、折り畳みの傘を受け取った。

「・・・体育倉庫で、ヒスイとエッチしてきたよ」と、コハク。

わざと言ったのだ。ジストの様子を窺い、それから苦笑いで。

「僕のこと、嫌いになった?」

「っ・・・!!そんなことないよっ!!ヒスイのことが好きだからって、父ちゃんのこと嫌いになるなんてないっ!!」

ジストは顔を上げ、否定した。

「そう、それは良かった」

コハクは、ジストの頭にタオルを乗せ。

「拭いた方がいいよ。すいぶん濡れてる」

するとジストは再び俯き・・・

 

 

「父ちゃん・・・オレ・・・ヒスイに好きって言っちゃった」

 

 

黙っているのは、罪な気がして。正直に打ち明ける。

脳天チョップをくらう覚悟はできていた。ところが。

「うん。ヒスイ、喜んでたよ」

「へっ・・・?」

「嬉しいって言ってた。僕からもお礼を言うよ。ありがとう」

「そ・・・んなこと・・・」

怒られると思っていたのに、お礼まで言われてしまい、困惑するジスト。

「君の本意には、反するかもしれないけど・・・」と、コハクが話を続けた。

「君が口にしたその言葉は、ヒスイを喜ばせるものだ。男としてヒスイを好きになっても、親子として好きな気持ちがなくなった訳じゃないでしょ?」

「うんっ!!」

ひとつの意味にばかり囚われていたが。息子として、ヒスイが好きなのも本当で。

ジストは大きく頷いた。

それを見たコハクは、ジストの頭に手を置き。

 

 

「だったら君は胸を張って、ヒスイに好きと言えばいい」

 

 

「父ちゃん・・・」

(何度“好き”って言ったって・・・本当の意味は伝わらないし、きっと何も変わらない。でも・・・)

 

 

ヒスイが喜んでくれるなら。

 

 

それが一番、重要なのだ。

「オレっ・・・!言うよ!ヒスイに、いっぱい好きって!!」

「うん、そうしてあげて」と、コハクが笑う。

「ところで・・・」

周囲には誰もいないというのに、あえて耳打ちするコハク。

「ヒスイのチアガール姿、見たくない?」

「見たいっ!!」即、ジストが食いつく。

二人は、ヒスイ萌えの同志なのだ。こんな時、ことさら盛り上がる。

雨雲と一緒に、暗い気持ちなど吹き飛んでしまう。

「じゃあ、協力してくれる?」

「うんっ!するする!!」

 

 

 

 

「あ・・・雨やんだ」

 

こちら、ヒスイ。ジストとの約束を守り、まだ体育倉庫にいた。

雨音が消え、扉の隙間から光が差し込む。

これで外に出られる・・・が。

ヒスイには、ひとつ大きな問題が残っていた。

コッパーの一味に、下着の写真を撮り逃げされているのだ。

「う〜ん・・・どうしよ・・・」

 

 

 
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