World Joker

123話 夢中で、忘れて


再びこちら、モルダバイト城、離宮三階――

『何者なんだ?』という、シトリンの問いに。
「それは今から話すけど――」と、コハク。

シトリンから、いくつかの情報を引き出したあと、一旦、室内入口まで戻り、ジンを招き入れた。

「・・・おい、どういうつもりだ?」

シトリンはいい顔をしなかったが・・・コハクはこう言い切った。

「ジンくんにはちゃんと話すべきだ。僕が彼の立場なら、この状況は納得できない」
「コハクさん・・・」

ジンからすれば、まさにその通りで。
ありがとうございます、と、熱く礼を述べ、続くコハクの説明を待った。

「シトリンを撃った人物が、何者かは僕も知らない。ただ――」

武術に長けたシトリンが、避けられないほどの弾・・・特殊な弾を撃つ者だとしたら。

「その人物の持つ“武器”こそが、前神が熾天使を滅ぼすために創製したものだろうね」
「むむ・・・」

少々話が難しかったのか、シトリンは首を傾げ。

「前神はお前の親のようなものだろう?なぜ、滅ぼすなどという物騒な流れになるんだ?」
「僕がそう仕向けたから」
「な・・・!?」

前神の命令に従う一方で、反逆の含みを持たせ、煽ったのだと、コハクは苦笑いで言った。
圧倒的強者として、一方的に力を振るう日々・・・

「毎日が退屈で、つまらなかった。あの頃は、いつ死んでもいいと思ってたんだ。天使殺しの武器を前神が何者かに授けた――なんて噂も時々耳にしたけど」
今回の事件が起きるまで、真否は曖昧のまま・・・

「だから――忘れてたんだよね」と、コハク。
それから、窓の外に目を遣り、もう一度、今度は呟くように口にした。

「ヒスイと生きるのに夢中で、忘れてたんだ。本当に」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

シトリンとジンは何も言えぬまま、静かに佇むコハクを見ていたが・・・
間もなく、シトリンが口を開き、尋ねた。

「それで、これからどうするつもりなんだ?」
「見つかる前に見つける。それだけだよ」

それじゃあ、お大事に、と。コハクがバルコニーへと向かう。

「待て!私も・・・」

傷を負っているシトリンは追うことができず。
しかし、その代わりに。

「待ってください!コハクさん!」

ジンがコハクを呼び止めた。すると、コハクは振り向き。

「ジンくん、君はどうしたい?“例の人物”に復讐する?」
「オレは――話がしたいです」復讐は考えていない、ジンはそう答え。
「君はすごいなぁ」コハクが笑う。
「オレが・・・ですか?」ジンは困惑気味に聞き返した。
「ヒスイを傷付けられるようなことがあれば、僕は絶対に許さない」

許せないんだ、と、付け加えるコハク。続けて・・・

「君は、この時代の王に向いてる」と、告げた。

ところで――と、コハク。

「この件、オニキスには知らせた?」
「あ、はい。シトリンが・・・」

わかった、と、頷き、飛び立つコハクに、ジンは慌てて声をかけた。

「コハクさん・・・っ!!今、コハクさんが動くのは危険――」

聞こえている筈だが、コハクは言葉を返さず。
にっこり笑って手を振ると、そのまま姿を消した。

「・・・・・・」(こんな時、どうすればいいんだ?)

唇を噛むジン・・・
コハクの天敵が現れたとなれば、事態は深刻だ。
今こそ力になりたい。けれどシトリンを一人残してはゆけない。
“王”という自分の立場にも行動を制限される。
手摺りにもたれ、結局最後は溜息だ。

「はぁ・・・」



そしてこちら――トパーズとメノウ。
早くもクラスター宅を後にしていた。

「まー、そう怒んなって」

ヒスイに扮したメノウが宥める――その相手は無論トパーズだ。

「計画が台無しだ。クソジジイ」

神の妻として、強引に詰め寄ったことで、『先日と印象がだいぶ違う』と、クラスターに不信感を抱かせ。
早期撤退を余儀なくされたのだ。
失敗・・・といえば、失敗なのだが。メノウは明るい口調で。

「収穫ゼロってワケでもないじゃん」
「何だ、言ってみろ」
「お前も気付いただろ?あいつ、あの家に何か隠してる。顔色が悪くなるほどの“何か”をさ」
「・・・だったら、その“何か”を探ってこい。いいか、次ヘマしたら――」

トパーズが制裁のヘッドロック(仮)をメノウに決めようとした、その時。

「トパーズぅぅっ!!」

ヒスイが突進してきた。
その勢いのまま、トパーズの胴体に抱きつき。

「知ってること、全部教えて!!教えてくれるまで、絶対離れないんだからぁっ!!」

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