World Joker

130話 マジョラムの誘惑


赤い屋根の屋敷――玄関前。
結局、皆、ヒスイが気がかりということで。
コスモクロアに集まったメンバーが移動してきた。
・・・が。全員、足を止める。
屋敷全体に結界が張られているのだ。

「これは、オニキス殿の・・・」シトリンが表情を険しくする。
「何かあったのかな」と、マーキュリーも表情を曇らせた。
「オニキスって、ああ見えて、実は監禁とか趣味?」
屋敷を仰ぎながら、そう言ったのはアイボリーだ。
するとスピネルが。
「オニキスに限らず、ママは“つかまえておきたい女”なんだと思うよ。ね、兄貴?」
――と、トパーズに話を振った。

「違いない」トパーズは否定せず、更にこう続けた。
「行くぞ――あの馬鹿が、何かやらかす前にな」

その頃、ヒスイは地下室にいた。
地下室・・・つまり、武器倉庫だ。

「魔法は詠唱時間があるから・・・相手が銃となるとかなり不利ね・・・」

ベビードール姿でブツブツ言いながら、お宝を物色している。

「発動まで時間を稼げる・・・何か・・・」

一人でクラスターと戦うつもりなのだ。
顔色こそあまり良くないが、気はしっかりしていた。

「・・・・・・」

自分が得意なのは、あくまで魔法だ。

「・・・そうね、盾がいいわ。できるだけ軽くて・・・弾を通さない・・・」

ひとり、そう希望を述べたヒスイは、本格的に倉庫を漁り始めた。
しかし、見つからず。焦りが募る。
その時だった。

『小娘――』

厳格な老人風の声がして、振り向くヒスイ。そこには・・・

「お兄ちゃんの・・・剣?」

最古にして最強の、魔剣マジョラム。※近年めっきり出番はない※
布が掛けられているため、直接は見えないが、魔剣がどんなものかは、ヒスイも知っている。
ただ、ヒスイがコハクの魔剣と言葉を交わすのは、これが初めてだった。
マジョラムは、愛想のない口調で、ヒスイに布を取り払うよう促した。

「・・・これでいい?」

マジョラムの人格を端的に表すならば、“気難しい老人”あたりが妥当だろう。
当然、礼など口にする筈もなく。

『小娘、先に言っておく。儂はお主を快く思ってはおらん』

ヒスイが産まれる前は、コハクの魔剣として、存分に力を発揮していたマジョラムだが。
ヒスイが産まれ、成長するにつれ、コハクは殺戮から遠ざかり。
放置される日々が続き・・・その存在すら忘れられていたのだ。
現にこの非常事態でも、置き去りだ。

「そんなの、逆恨みじゃない」
別にあなたに好かれようとは思っていない――と、ヒスイ。

『生意気言いおって。儂の方が奴との付き合いは長いのだぞ』

「ぐ・・・」(確かにそうかもしれないけど・・・)
「一緒にいた時間は私の方が長いわ!あなたはずっとここに居たんでしょ!?」
ヒスイは、ムキになって言い返した。
「私の方が、お兄ちゃんのこと知ってるもんっ!!」

『ならば今、奴がどこにいるか、当ててみよ』

「!!そ・・・それは・・・」
わかるなら、苦労しない。
眉を顰め、一度は俯くヒスイだったが、すぐに顔を上げ。
「あなたには、わかるっていうの?」
『無論、容易い』
「じゃあ、教えて」という、ヒスイの問いを、マジョラムは一蹴。
『言ったであろう。儂はお主を快く思ってはおらん』
コハクの“牙”を折った、憎き女子。

『だが、力を貸してやってもよい。そのかわり――』
『お主の一部を儂に寄越せ』


こちら、オニキスサイド。

「ヒスイ・・・」心底、溜息が出る。
屋敷の外に逃げられてはなるまいと、咄嗟に結界を張ったものの・・・
屋敷そのものが広く、一部不可解な構造になっていることもあり、探し出すのも、ひと苦労だ。
抱きしめて、離さなければ良かったと、後悔しても遅い。
「・・・・・・」(どこへ行った・・・)

と、そこで。

「オニキス殿!!これは何事だ!?」

シトリンを先頭に、アイボリー、マーキュリー、ジストが駆け込む。
他のメンバーも次々と合流し。ヒスイが姿をくらませたことを知った。
屋敷内を手分けして探すという話になったが、そこで、ジストが一言。
「オレっ!ヒスイんとこ飛んでみるっ!!」


こちら、ヒスイサイド。

『お主の一部を儂に寄越せ』
『爪を剥いでも、目玉を繰り抜いてもよいぞ』

そうマジョラムに言われたヒスイは、「わかった」と頷き。
近くの短剣を手にした。豪華な装飾が施された鞘を抜き、自身に刃を向ける。
そして――

「これで、いいわよね」

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