World Joker

131話 ありあまる愛


それは、契約のようなもの――と、理解した。
ヒスイは銀の髪を束ね、そこに刃を押し当てた。

「私の“一部”って言うなら、これでいいわよね?」

以前ジストにそう言われたことを思い出しながら※オトナのストセラ『カミナガヒメ』参照※短剣を握る手に力を込めた。
いざ――という、その時だった。

「ヒスイ・・・っ!!」

屋敷内を“飛んで”移動してきたジストが、短剣を取り上げた。

「ジスト!?ちょっ・・・返して!!」

ジストの登場に、ヒスイは少々驚いた様だったが、今はそれどころではなく。
短剣を取り戻すのに必死だ。

「駄目だよ!!髪は女の命って言うだろ・・・っ!!」
いつの時代の格言か・・・ジストがそう言うと。

「別にいいよっ!お兄ちゃんがいなかったら、女でいる意味ないもん!!」
ヒスイは乱暴な口調で言い返した。

「――っ!!駄目だっ!!」

暴れるヒスイを、ジストが強引に押し倒す。
短剣は二人の手を離れ、床に落ちた。

「そんなこと言わないで・・・」声を喉に詰まらせながら、ジストが切々と説く。
「ヒスイのこと好きなのは、父ちゃんだけじゃないんだよ?兄ちゃんも、オニキスのおっちゃんも、あーもまーも・・・オレだって・・・みんなヒスイのことが好きなんだ。だから・・・もっと大切にして。お願い――」
ポタッ・・・ジストの涙がヒスイの頬に落ちた。

「ジスト・・・」
ヒスイは困惑の表情を浮かべている。
たかが髪、されど髪。
「・・・・・・」(だって、こうするしか・・・)

すると――

バサッ!銀髪の束が、マジョラムの前に投げ捨てられた。
ヒスイのものではない。だとすれば・・・

「アクアっ!?」

ジストが視線を向けた先には、短剣を手にしたアクアが立っていた。シトリンもいる。
ジストが“飛ぶ”際、その体に掴まり、共にこの場へ来ていたのだ。
ちなみにジストの了解は得ておらず、成功したのも奇跡に近い。

「・・・・・・」(なんで・・・こんなことに・・・)

声を失っているヒスイに、堂々、歩み寄るアクア。
自慢のロングヘアは、切りっ放しボブ状態となっている。

「ジス兄〜ぃ、ちょっとどいてぇ〜」
アクアは、ヒスイを押さえつけていたジストをどかし。ヒスイを起き上がらせた。

「ね〜、ママぁ〜」と、ヒスイを覗き込み。
「勝手なことしたらぁ、アクア、許さないよ〜?」
短剣を床に置き、その指を、ヒスイの髪に絡める・・・
「この髪はぁ、アクアのお気に入りなの〜。切っちゃダメだよ〜?」
「!!だからって、アクアが切ること・・・」
やっとそこで言葉を発したヒスイだったが・・・

「アクアの〜、言うこと聞いて?じゃないと――めちゃくちゃに、犯すよ?」

低い声でそう脅され、ヒスイはその場にへたり込んだ。
「母上をあまり怖がらせるな」と、アクアに並んで立つシトリン。
「ほらぁ〜、そんな顔しないのぉ〜」

血の気なく、茫然としているヒスイの頬に、アクアは親愛のキスをした。
「アクアがぁ〜、ママの“剣”になったげる〜」
「ならば私が“盾”となろう!!」
シトリンが意気揚々とそう続けた時だった。

「・・・そういうの、やめて」
呟くように口にするヒスイ。それから・・・
「私のことは放っておいて!!」
大声でそう告げ。逃走を図った、が。

「ヒスイ・・・っ!!」ジストが抱きしめ、逃さない。
「いやっ・・・!!離してっ!!」
ヒスイは抵抗し、いないとわかっていても、呼んでしまう。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん・・・っ!!」
「――っ!!!」
どうしていいかわからないジストは、力いっぱい抱擁するしかなかった。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、って、そんなに俺達のこと信用できねぇの?」

追って現れたアイボリーが言った。
「あーくん、言い過ぎだよ」
一緒にいたマーキュリーがヒスイを気遣い、咎める。
「・・・・・・」(馬鹿が・・・)←トパーズ。

ジストとは別に、勘の良いアイボリーが探り当てた地下倉庫に、トパーズも同行していた。
「来い」ジストの腕からヒスイを引き摺り出し。
「そんなにあいつが恋しいなら――くれてやる」

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