World Joker

133話 ミルクはいかが?


完全なる夜明けを迎え――それぞれが動き出した。

サルファーは「“クラスター”を狩る」と、言い残し、早くも姿を消していた。
心配したジストとタンジェが後を追う。
オニキスはコハクを、マーキュリーはヒスイを探しに出掛け。
ジンは立場上、帰城せざるを得なかった。

リビングに戻ったアイボリーが。
「皆、バラバラじゃんか。何の為に集まったんだよ」と、ぼやく。
「・・・・・・」←スピネル。
(ママが、皆の気持ちを受け入れて、集団行動を選んでくれれば良かったんだけど・・・)
「・・・不器用なひとだから、難しいかな」

同じ頃。

赤い屋根の屋敷、地下室には、美人巨乳姉妹、シトリンとアクアの姿があった。
両者並び立ち、両腕を組んで。魔剣マジョラムに怒りを向けていた。

「どうしてくれるんだ、おい」と、迫るシトリン。
「おじぃのクセに、ママを口説くとかぁ〜、笑えるぅ〜」
続けてアクアが悪意ある言葉を浴びせる。

そして更にシトリンが。
「そもそもお前が、あのような条件を出さなければ、母上と気まずい空気にならずに済んだんだ!!」
「おい!!黙ってないで、何とか言え!!」



場面は変わり、セレの住居にて――
シャワーの音が止み。

「セレ、何か着るものない?」
ヒスイの声。ランドリールームから顔だけ覗かせている。

「これで良いかね?」
と、セレが手渡したのは、白いエクソシストの制服だった。
無論、女子用。そしてなぜかヒスイサイズだ。
セレ曰く、試作品とのことだが・・・

今は、着られれば何でもいい。ヒスイはそれに袖を通した。
「助かったわ。ありがと」セレの前に立ち、ヒスイが礼を述べる。
「よく似合っているよ。“白”も」

これは私からのプレゼントだ――セレはそう言って、ヒスイの髪にリボンを結んだ。
左右、僅かな束に結び付けられた純白のリボンは、愛らしい動物の耳※若干シュンとしている風※に見えた。

「じゃあ、私はこれで」忙しなく、セレの脇を抜けようとするヒスイ。
「まあ、待ちたまえ」腕で道を塞ぎ、セレが引き止める。
「君のナイト達はどうしたのかね?」

セレの問いに、ヒスイはやや声のトーンを落とし、答えた。
「・・・ひとりで行動したいの」

私には、沢山のものを守る力なんてないから。

「それは“巻き込みたくない”ということかね?」
「・・・・・・」ヒスイが黙っていると。
「ヒスイ、こちらへおいで」
「!?ちょっ・・・なにす・・・」
いつにも増して軽々と抱き上げられたヒスイは、ふかふかのソファーに座らされた。

「のんびりしてる暇なんて、ないんだってば!」
と、ヒスイが立ち上がろうとした時だった。

コトン・・・目の前のテーブルに、冷えたミルク瓶。
その脇にスッと粉袋が差し出された。
「!!こ・・・これって・・・」
イチゴ風味、メロン風味、バナナ風味etc・・・ミルクの味を変えられる、摩訶不思議な粉。
その存在を、ヒスイも知ってはいたが、飲むのは初めてだった。
「いかがかね?少し話をしよう」と、セレ。
ヒスイは咳払いをひとつ。そして。
「・・・これ飲んでる間だけよ?」
「充分だよ」
「で?何話すの?」

ヒスイの向かいに腰掛け、セレはこう切り出した。
「君が追っている“彼”の件だがね」
大量発生したコハクから、ヒスイを救い出すなかで、今回の騒動の情報はあらかた得ていたのだ。
口を割らせた、と言った方が正しいのかもしれないが、ヒスイがそれを気にしている様子はなかった。
※その手の展開に慣れているため※

「どうする気かね?」と、セレが尋ねると。
「できれば“エンジェルキラー”を――武器を奪いたいわ。お兄ちゃん達の危険を少しでも減らしたいから」
と、ヒスイ。それから逆に。
「ねぇ、セレ」
「何だね?」
「“クラスター”は、お兄ちゃんのこと、どれくらい知ってると思う?」

ほとんど知らない。

「――だろうね」
「うん、私もそう思う」

するとセレが。
「君達一族以外にも、教会には多くの天使が在籍している。私としても見過ごせない案件だ。どうだね、私と組むというのは」
「え?セレと?」
「君は“やればできる子”だと、信じているからね」
「信じて・・・くれるの?私を?」
「勿論だ」
そう言って頷くセレの笑顔は、見る者が見れば、胡散臭いものかもしれない。
しかし、ヒスイがそんなことを思う筈もなく。

「今回こそ失敗しないわ!」
と、ミルク瓶を手に立ち上がった。
残りのミルクを、ごきゅっごきゅっ、と飲み干し。
空瓶を力強くテーブルに起くと、ヒスイはこう返答した。

「いいよ、組んでも」

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