World Joker

―外伝―

TEAM ROSE



[ 05 ]


その夜――赤い屋根の屋敷。

ヒスイと子供達を寝かしつけ、出発準備を済ませたコハクの元へ、ヴァンパイアハンター組のリーダーであるメノウが訪れた。
「よっ!」
「メノウ様、お待ちしてました」
客間へと通し、カロリー控えめの手作りドーナツとカフェラテを振る舞う。
今やすっかりコハクがここの主だ。


メノウがやってきたのは、各組のリーダー同士、情報交換をするためだった。
まずはメノウが、コハクに手土産。
それは一枚の紙だった。
各地に散らばる吸血鬼のリストである。
真祖吸血鬼であるコクヨウから聞き出したのだ。
「“オブシディアン”っちゃ、吸血鬼界では結構なモンだろ」と、笑うメノウ。
オブシディアンとは、コクヨウの本名だ。
今でこそアクアの尻に敷かれているが、真祖吸血鬼として栄華を極めた時期もあったのだ。
「ホーンブレンドに棲む吸血鬼と、繋がりがあるかどうかはわかんないけどさ。辿ってきゃ、何とかなるだろ」
「どうも、ご苦労様でした」
コハクが笑顔で礼を述べる。
「では、こちらをどうぞ」と、同じく一枚の紙をメノウに渡した。
それには、ヴァンパイアハンターの制服デザインが描かれている。
コハクがヴァンパイアハンター狩りをしたのは、随分前の話だが、細部までしっかり記憶していたのだ。
コハクの頭脳を以ってすれば、それくらいは容易い。
「へー・・・これがそうなんだ?」
興味深そうに、メノウが紙面を眺める。
「はい、それでこのエンブレムなんですけど」
続けてコハクが、見本をひとつ、メノウの手のひらに落とした。
それは十字架の中心から天使の羽根が生えたようなデザインで、パッと見、“米”という字に似ている。
個人の階級を示すもので、羽根の枚数が多ければ多いほど、位が高いということになるらしい。
コハクが狙ったのは、上級のヴァンパイアハンターだったため、見本のエンブレムは、バランス良く羽根が四ヶ所に配置されていた。
「フェナスくんの話だと、新米、下級、中級、上級の四段階制度のようです。教団代表補佐を務める男の名は――イオスフォライト。彼に接触さえできれば・・・」
「だな」
互いに頷き合い。
それからメノウがこう言い足した。
「あとさ、セレには気を付けろよ?」
勿論、と、コハクが返事をする。
「あいつ、ヒスイを幹部に入れようとしてる」
悪い話ではないようにも思えるが・・・幹部には裏の顔もある。
「そーゆのに、ヒスイを巻き込みたくないじゃん」
「ですね」




そして夜が明け――

吸血鬼組は、海の上にいた。
別大陸にあるホーンブレンドへの移動手段として選んだのは、一族が所有する豪華客船※幽霊スタッフ付※だ。
双子兄弟と、ベビーシッターを務めるジストも乗船している。

出航から一時間・・・

衣装合わせのため、船内フロアに一同が集まった。
コハク、オニキス、セレ・・・仕立てが済んだ黒スーツにそれぞれ袖を通し、着心地を確かめる。
紅一点のヒスイは、ブラウスの上にビスチェ、スカートの下にパニエを履いて、ヘッドドレスを着けていた。
色使いこそゴシック調だが、その姿はとても愛らしい。
赤毛の狼、ベルガモットとの相性※見た目の※もバッチリだ。


薔薇の飾りが付いたピアスをメンバーに配りながら、コハクが言った。
「今回、僕はヒスイの護衛に徹するつもりなので、戦闘はお二人にお任せしますね」
お二人=オニキスとセレだ。
「まあ、そのうちトパーズも合流するでしょうし」
戦力的に、自分抜きでも全く問題ない、と、コハク。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「私は何をすればいいの?」
ベルガモットの頭を撫でながら、ヒスイが尋ねる。
するとコハクは。
「ヒスイはヒスイのままで充分だけど、強いて言うなら――」


人前で笑わないこと。


「――かな」
「それって、いつも通り、ってこと?」
人見知りのヒスイは、人前で滅多に笑わないのだ。
「くすっ、そうだね。でも・・・」


僕の前では、たくさん笑っていいからね。


「うんっ!」


と、そこで。
「コハク、ひとつ確認しておきたいことがある」
オニキスが、ある話を切り出した。
対吸血鬼に使用される武器・・・“銀”がヒスイの体に及ぼす影響についてだ。
この先、“そういう場面”に出くわすこともあるだろうと考えてのことだった。
・・・が。
「・・・それ、どういうことですか?」
コハクが聞き返し。
「あ」
ハッとしたようにヒスイが口を押さえた。
(どうしよう・・・)



お兄ちゃんに言うの、忘れてた・・・。






ページのトップへ戻る