World Joker

―外伝―

TEAM ROSE



[ 12 ]

海の魔神と称される悪魔――ダゴン。

半魚人達の長ともいえる存在であり、当然ながら、特(魔)クラスだ。
見た目は哺乳類・・・ジュゴンに似ているとされているが、とにかく大きい。
仰ぎ見ても頭部が確認できないほどに。
「セレはその辺に隠れてて!」と、ヒスイ。
ダゴンは凶暴な悪魔ではないが、この都市の守護者だ。侵入者は排除される。
今のところ、見つかってはいないようだが・・・
「・・・・・・」(先に仕掛けるしかないわね)
魔法のステッキを手に、ヒスイが走り出る。
ダゴン本体を円で囲うように、一周するつもりなのだ。
それが、魔法を発動させるための条件だった。
「はぁっ・・・!はぁっ・・・!」(こういう時は胸が邪魔ね)
ブラジャーで、ある程度固定されてはいるが、やはりいつもより揺れる。
「はっ、はっ、はぁ・・・っ!」
走って、走って、走り続けて、一周。
ヒスイは苦しげな息を吐きながらも、魔法のステッキを掲げ。


『砂金の螺旋』


呪文を口にしてから、再び走って距離を取る。
遙か上空・・・天からサラサラと金色に輝く砂が降ってきた。
一本の筋となり、それが螺旋状に変化しながらダゴンに巻き付く・・・強力な拘束魔法。
ここでも、争うことなく動きを封じることに成功した。
静かで・・・美しいとさえ思える光景だった。
「大したものだ」
建物の窓から、セレが眺める。
次々と明らかになるヒスイのスキル。
歌唱魔法による後方支援のイメージが強いが、見事な拘束魔法・・・言語にも長けている。
そして何より、無益な争いは避けるという考えを持っている。
「――合格だよ、ヒスイ」
セレのその言葉は、無論ヒスイには聞こえていなかった。




「――できたわ」
肩で息をしながら、ヒスイが言った。
石版の書き換えが完了したのだ。
これで当分ルルイエが浮上することはない。
人間界への影響も少なくて済む。偉業を達成したのだ。
「はぁ〜っ・・・」
座り込み、呼吸を整える。ヒスイはいつもの体型に戻っていた。
「ご苦労だったね」と、セレ。
「ところで、ヒスイ」
「何?」


「特級エクソシストに昇格しないかね?」


「ん〜・・・」
ヒスイは少し考えてから。
「無理だと思う」
「無理?何故だね?」
「実力じゃないの」と、ヒスイ。


「お兄ちゃんがいないと、安心して失敗もできないから」


そう言って、笑った。
「お兄ちゃんといる時が“本当の私”。本当の私は、失敗ばっかりしてる。だから、特級はまだ早いよ」
「残念だよ」と、苦笑いで肩を竦めるセレ。
「そうそう、それで、帰り方なんだけど――」
ヒスイはそこまで言って、大欠伸。
「ちょっと休んでからでもいい?」
「構わないよ」
セレが返事をするや否や、ZZZ・・・眠り始めた。
セレは軽々とヒスイを抱きかかえ。
「それでは、帰ろうか。試験はお終いにしよう」




――甲板。

景色を楽しむための一画には、パラソルと、リクライニング式デッキチェアがいくつか設置されている。
そのひとつに眠るヒスイを寄り掛からせるセレ。
続けて頭を撫でようとした、その時――


「その手をどけろ」


発せられたのは、トパーズの声だった。
銀髪の赤子、マーキュリーを腕に抱き、セレの背後に立っていた。
「やれやれ」と、セレがヒスイから離れる。


「これでも、純愛路線でいくつもりなのだがね」


冗談なのか、本気なのか、笑いを含んだ声で、すれ違いざまセレがそう口にする。
一方、トパーズは完全無視で、ヒスイの元へと向かった。
「・・・・・・」
コハクはまだ戻っていない。行き違いになったのだ。
ヒスイが消息不明になった途端、アイボリーとマーキュリー、双子兄弟の機嫌はすこぶる悪くなり。ぐすりっ放しだった。
粉ミルクでは納得がいかないらしく、駄々を捏ねるように泣き。
ジストとカーネリアンが手を焼いていたところに、到着したのだ。
ちなみにオニキスは、船をこの場に留めるため、操舵室に行っていた。
「起きろ」
トパーズは、ヒスイの額を軽く指で弾いた。
「ふぁっ!?」
驚いたヒスイが飛び起きる。
「あれ?あれれ?」(船に戻ってきてる?)
ヒスイは状況を理解できないらしく、ぽかんとしている。
「セレは・・・あれ?トパーズ???」
ますます理解不能だが。
「飲ませてやれ」と、マーキュリーを渡され。
「あ・・・うん」と、ヒスイ。
ジャージのチャックを下ろし、Tシャツを捲り上げ、今やサイズの合わないブラジャーの前ホックを外すと、マーキュリーに乳を吸わせた。
「・・・・・・」(何が起きてるのか、よくわからないんだけど・・・)
そんなヒスイに、トパーズが知りうる限りの経緯を説明した。
「アイツはまだ戻ってきてない」
とはいえ、コハクのことだ。もうこちらに向かっているに違いない。
「そっか・・・」(お兄ちゃん、いないんだ・・・)
ヒスイは露骨にガッカリした様子だったが。
「さっさと済ませろ。後がつかえてる」
お腹を空かせているのは、マーキュリーだけではないのだ。
「あ、うん。あーくんは?」
「今、ジストが看てる」
しばし沈黙の時間が流れ・・・突然。


「舐める?」


ヒスイは、母乳で濡らした左手をトパーズに差し出した。
「今更だけど――トパーズにはちゃんとあげてなかったし」
まだたくさん出るから大丈夫だよ、と、ヒスイ。
「・・・本当に今更だな」
ヒスイは自分の非を認めた口調で。
「うん。初めて産んだ時は、子供にあげるとか、考えられなくて・・・全部お兄ちゃんに飲んでもらってた」
正直にそう話した。
「・・・・・・」
「なのに、何人も産んでるうちに、だんだん慣れてきちゃって。アクアとか、ずっと吸ってたし」
おっぱい伸びちゃうかと思うくらい、と、気恥ずかしそうに笑う。
それから、トパーズを見上げ。


「遅くなって、ごめんね」


すると・・・
トパーズが容赦なくこう言い放った。
「だったら、直接吸わせろ」
「えっ!?そ・・・それはちょっと絵的にNGじゃ・・・」
狼狽えるヒスイが可笑しくて、トパーズが笑う。
「まあいい。今夜はこれで勘弁してやる」
トパーズは身を屈め、ヒスイの左手首を掴んだ。
手のひらから、指の股にかけて、熱い息と共に舌を這わせ。
ヒスイの細い指に沿って、舌先を滑らせた。
サーモンピンクの爪を食み、唇の間から伸ばした舌を絡ませる。
母乳はとっくに舐め取られていた。
これは――愛撫だ。
「!?ちょっ・・・」
予想外の展開に慌てるも。
「何だ?」
「・・・・・・」
言いだしっぺは自分なので、黙る。
「・・・なんでもない」




「・・・・・・」
(兄ちゃんも、ヒスイも、なんかエロい・・・)
甲板には、ジストの姿があった。
腕に金髪の赤子、アイボリーを抱いている。
「・・・・・・」
男としては、嫉妬する場面、だけれども。
息子としては・・・違う。
どんなカタチであれ、二人の間にはちゃんと愛があって。
(ホッとするっていうか・・・)


ちょっと、嬉しいのかな。


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