World Joker

―外伝―

TEAM ROSE



[ 15 ]

シンナバーの港に停泊すること約半日・・・
日没の一時間ほど前に、コハクが戻ってきた。

102号室にて。

「ただいま、ヒスイ」
「お兄ちゃん!お帰りっ!どこ行って・・・わ!?」
飛び付くヒスイにキスをしてから、お姫様だっこ。
ドレッサーの椅子に座らせる。
コハクは、丁寧にヒスイの髪を梳かしながら。
「ここ、シンナバーはね――」
とある吸血鬼一族の狩場になっていること。
夜になると、人間は皆、建物に身を潜めてしまうこと。
――などを話した。
「僕等はこれから、その狩場を奪うんだ」
「狩場を奪う?人間の味方をするの?」と、鏡越し、ヒスイが尋ねる。
「そういう見方もあるけど・・・」
厳密には、そうではない。


「僕等はただ、力を誇示するだけだよ」


「そうなの???」
「うん」
「それで、私は今夜何をすればいいの?」
「ヒスイは立ってるだけでいいから・・・っと、よし、できた」
メイクを済ませ、チームロゼの制服を着せたヒスイに、コハクはこう告げた。
「さあ、デビューだよ」




日没を知らせるサイレンが鳴る。
活気に溢れていた港町は、ぱったり人気がなくなった。
昼の賑わいが嘘のように閑散としている。
チームロゼ一行が石畳を踏む音しか聞こえない。
先頭はオニキス。その後ろにヒスイ。両脇にコハクとトパーズを従えて。しんがりはセレが務めていた。
ベルガモットは当然、ヒスイの最も近くに寄り添って歩いている。
「例の情報は確かなのか?」と、オニキス。
「ええ、まあ」コハクが答える。

満月の一日前の夜、必ず現れる吸血鬼がいる。

コハクが町で集めた情報のひとつだった。
そして偶然にも、この夜が、満月の一日前なのだ。
「その吸血鬼が“彼”かどうかはわかりませんが――」
実のところ、何が出現しようと、大した問題ではない。
「僕等の存在を示せばいいだけですから」
「ヴァンパイアハンター側に動きはあるのか?」
「そのあたりは、何とも」と、コハク。
シンナバーは、ホーンブレンドと同じ大陸に位置しているものの、距離はだいぶ開いている。
「町長が要請したという噂を耳にした程度です」



――場面は変わり。


「闇が・・・俺を迎えにきた」


右手で自ら顔を覆い、そう呟くのは、新米ヴァンパイアハンター、ゼノタイム※略称ゼノ※
ややオレンジがかったライトブラウンの髪を肩まで伸ばし、それで左目を隠している。
成人した大人だが、比較的小柄である。
「邪眼が共鳴している・・・奴等が近いぜ・・・」
「お、おい、それ本当か?」
隣にいるヴァンパイアハンターの青年が怯えた様子を見せた。
するともうひとりの、愛想のない男が。
「中二病の妄言を、いちいち真に受けんじゃねぇよ」と、釘を刺した。
新米ヴァンパイアハンターゼノの他、下級、中級で構成された三人一組。
シンナバーには、十数名が派遣されていたが、シフト制のため、この日、この三人組が、夜の見廻りを担当することになったのだ。

そして、ゼノがある意味でたらめに口にしたことが、現実となる――

彼等の前に現れた吸血鬼は、いかにも吸血鬼というヴィジュアルで。
ふんわりとした長い黒髪を品良く束ねている。
冷たい夜風を受け、翻る黒マント。
妖しく輝く牙。細身で長身。美しくも禍々しい雰囲気だ。
傍らに、使い魔らしき褐色の狼を従えている。
その吸血鬼の名は――リディコタイト。※略称リディ※
リアルガーの使用人のひとりだ。
「ヴァンパイアハンターの小童どもが」
リディは三人を見下ろし。
「丁度良い。坊ちゃまへの手土産にしてくれよう」と。
使い魔に攻撃の指示を出した。
「に・・・にげるぞっ!」
ヴァンパイアハンター下級の青年が逃走する一方で、中級の男が銃を構える。
本物の吸血鬼を前に、ゼノは腰を抜かし、へたり込んでいた。
「くそッ!!」
中級の男は、狼に押し倒され、あっという間に動きを封じられた。
「殺れ」
リディの命を受け、グワッ・・・狼が大きく口を開けた――その時。

ギャンッ!!

狼を蹴り飛ばす者がいた。トパーズだ。
「はいはい、手荒な真似はしないでね」
手を叩きながら、コハクが前に出る。
弱者を嬲る目をしていたリディは一転、突如現れた一行に警戒の眼差しを向けた。
「貴様ら、何者だ」


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