World Joker

―外伝―

TEAM ROSE



[ 16 ]

一度目の問いには、答えない。
「何者だと訊いているッ!!」
リディが語彙を強める。
トパーズとコハクは、その間に、持ち場へと戻り。
フォーメーションを復活させた。
すると間もなく、神秘的な霧がチームロゼ一帯を包んだ。
実は・・・
ヒスイをより“それっぽく”引き立てるための、仕込みだったりする。
「えっと、これでいいんだよなっ?」
少し離れた所にジストが待機しており、コハクの指示でスモークを焚いたのだ。
ヒスイ以外のメンバーには、台本が配られていた。
それに則り、まずオニキスが膝を折り、こう述べる。


「異国より参りし、吸血鬼の姫、ヴァンパイアプリンセスの名の下に――」


続けてセレが←ノリノリのあくどい微笑みで。


「この地は、我々が戴く」


・・・と、宣言し、ヒスイの背後で膝を折る。
コハクとトパーズもまた膝を折り、声を揃えて言った。


「「我等は――TEAM ROSE」」


「!?」(え・・・ちょっ・・・なにこれぇっ!?)
驚いたのは、ヒスイだ。
(みんな何やってるのよぉぉぉ!!)
傍らのベルガモットも、どことなくキメ顔だ。役に入りきっている。
ヒスイは、あまりの恥ずかしさに声も出ず。
それこそ立っているだけとなった。
極めつけは・・・
「!?」(今度は何っ!?)
月光を遮るほどの、蝙蝠の大群。
これもまた、演出のためにコハクが集めてきたものを、ジストが空に放ったのだ。
「・・・・・・」
真祖吸血鬼として、申し分ない登場をしたヒスイ。
本人は気が遠くなりそうだが、むしろそれが無表情を促進させ、鳥肌ものの美しさを醸し出している。
周囲に与えた印象は強烈なものだった。
ヴァンパイアハンター達は勿論のこと、リディさえも怯ませる。が。
「TEAM ROSE・・・だと?」
こちらも引く訳にはいかない。
主とおぼしきヒスイを睨みつける。
「すべてお前の眷属か。何とか言えッ!ヴァンパイアプリンセス!」
「・・・・・・」(そんなこと言われても・・・)
ヒスイには、台本がなく。
勝手にどんどん話が進んでいっている。
「肯定していいよ」
隣のコハクが小声でそう言い、こっそりカンペを出した。
(ええと・・・)
ヒスイはそれを見ながら。
「そうよ。欲しいものは、すべて手に入れる」


「私に楯突くならば――駆逐するまで」


そこで強い殺気を放つ。ヒスイではなく、コハクが。
しかしこの流れでは、当然ヒスイが放ったものと思われる。
(どういうキャラ設定なの?これ・・・)←ヒスイ、心の声。
次の瞬間。
「小娘がッ!!」
恐怖に顔を引き攣らせたリディが、使い魔をけしかけた。ヒスイに向けて。
応戦するのは、ヒスイの使い魔、ベルガモットだ。
「!?ベ・・・」
つい“地”が出そうになったヒスイの口を、背後のセレが素早く塞ぐ。
それから耳元で、こう告げた。
「コハクの台本通りだよ。心配はいらない」


真祖吸血鬼同士、使い魔を戦わせるのは、挨拶のようなもので。
それにより、相手の力量を見定める。
・・・と、ここまでは、それこそコハクの描いたシナリオ通り。
ところがここから、意外な展開となる――。

ガルッ!!ガルルッ!!

褐色と赤毛の狼が、互いに噛み付き合い、縺れ合い、近くの路地に転がり込む。
体格は褐色の狼が勝っていたが、トパーズの蹴りが効いているらしく、赤毛の狼ベルガモットが優勢だった。
(もらったよ!)
ガルァッ!!トドメのひと噛み、というところで。


「ギブ!ギブ!ギブ!!」


褐色の狼が言葉を発し、その姿を人型へと変えた。
戻った、という方が正しいのかもしれない。
「!!アンタまさか――」
思わず、ベルガモット・・・カーネリアンも人語を口にする。
「!?そういうあんたも・・・」


「「半吸血鬼!?」」


半吸血鬼が“化ける”のは一般的ではないが、互いになんとなく同じ境遇であることを察したのだ。




「?」
路地に入った使い魔達が大人しくなり、不審に思ったリディが狼の名を呼んだ。
「リヒター!」
返事がないため、自ら路地へと足を運ぶ。
「!!」
するとそこには、本来のリヒターの姿があった。
リディの目には、カーネリアン・・・もとい、赤毛の狼ベルガモットに、リヒターが追い詰められているように見えた。
何より・・・秘密がひとつ暴かれ。
「――ッ!!撤退だ!リヒター!」
「へいへい」と、ゆるい返事をしたリヒターが再び褐色の狼へと変化する。


こうして、波乱の第一夜は幕を下ろした。




「――てな訳でさ」
翌日早朝。カーネリアンは路地での出来事を打ち明けた。
105号室。オニキスの部屋だ。
そこにはコハクもいた。※ヒスイはまだ寝ています※
「向こうの使い魔も半吸血鬼だったとは・・・」と、オニキスが考え深げに口にする。
「ならば、あの吸血鬼も・・・」
「そうですね、その可能性が高いかと」と、コハク。
本当の意味で使い魔を持つことができるのは、真祖のみなのだ。
リディもまた、半吸血鬼を真祖に見せかける、ヒスイと同じ作戦ということになる。
「まあ、その方が何かと都合がいいんでしょう」
コハクは軽く切り上げたが・・・カーネリアンは難しい顔で。
「すまないね。アタシもバレちまったようだよ。向こうさんにさ」
「・・・・・・」「・・・・・・」
コハクもオニキスもカーネリアンを責めることはなく、黙って次の言葉を待った。
「少し話をしたよ。悪い奴じゃなさそうだった」
聞いた話では、“主人”はリアルガー。
「命の保証をしてくれるなら、リアルガーの棲み家を教えてもいい、とさ。アイツは殺気の出所に気付いてた」
カーネリアンはそう言って、コハクを見た。
「命の保証?しますよ?時と場合によりますけど」
「それは保証とは言わんだろう」
溜息混じりに、オニキスがコハクを押し退ける。
「こいつに代わり、オレが保証する」
「アンタらもコンビが板についてきたねぇ」
カーネリアンは苦笑いで、リアルガーの棲み家を告げた――


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