World Joker

―外伝―

TEAM ROSE



[ 17 ]


「ん・・・」

朝日が昇り、ヒスイが目を覚ます。
部屋に漂う、甘いミルクティの香り・・・

「おにいちゃん?」

コハクを呼ぶと、すぐに返事が返ってきた。

「おはよう、ヒスイ」
「おはよ!お兄ちゃん!」

そのため、今朝はご機嫌だ。
しばらく寛いでから、身支度を整え、食堂へ。

朝食を済ませ、早速打ち合わせに入る。
コハクが入手してきた、この地方の地図をテーブルに拡げ、位置確認。
港町から内陸へは、交易のための道が敷かれ、樹海が左右に分断されている。
深く生い茂る木々・・・その奥にリアルガーの棲み家があるという。
また、そこには侵入者を惑わせる結界が張られており。
決まった木と木の間が、隠れた入口になっているそうだ。
これらはすべて、カーネリアンが路地で聞き出した情報だ。
今はベルガモットとして、一言も発さずヒスイの傍らに控えている。

「この辺りだな」

オニキスが地図の一点を指す。
相槌を打ったコハクが、続けてこう言った。

「とりあえず、僕等二人で様子を見に行ってきます」

“僕等二人”というのは、コハクとオニキスのことだ・・・が。

「私も行くっ!!」
と、ヒスイ。
コハクに抱き付き、お兄ちゃんと一緒がいい!と、言い張る。
コハクは笑いながらヒスイの頭を撫で。連れて行けない理由を述べた。

「リアルガー・・・彼等の主はね、女の子が苦手らしいんだ」
「女の子が・・・苦手?」

目をぱちくりさせながら、ヒスイが復唱する。

「そう、だから僕等だけで――」
「あ!」

それなら〜と、ヒスイがある提案をした。

「私は“男の娘”ってことにすればいいんじゃない?」

「胸もほとんどないし!大丈夫だよ!」

やや自爆気味ではあるが、今日は割合冴えている。・・・かもしれない。

「成程ね」
と、コハク。
「だったら、丁度いい服があるよ」

ボーイッシュ系のロリータ服も持ってきていた。
まさか出番があるとは思わなかったが。

「ホントっ!?」

ヒスイが瞳を輝かせる。

「じゃあ私も一緒に行けるね!」と、すっかりその気になったところで。

「ガキ共はどうする」

お前は残れ――トパーズが言った。
ヒスイの襟首を掴み、コハクから引き剥がそうとする。

「っ〜!!」

トパーズの言っている意味はわかる。
双子兄弟にとって、自分は“食糧”なのだ。
それはわかる。わかるのだが・・・
ヒスイは、ベビーカーに乗っている双子兄弟に向け。

「あーくん、まーくん、行っていい!?」
と、尋ね。
「行っていいって!!」

勝手に答えを導き出した。

「自作自演するな、バカ」

ここでもまたトパーズに叱られるも。

「おっぱい、いっぱい絞って置いてくからぁっ!!行かせてー!!」

と、じたばた。
・・・こうして、ヒスイもメンバーに加わった。
※必然的にベルガモットも同行※



第二夜の幕開けである――

日が沈み、サイレンが鳴る頃、三人と一匹は船を下りた。
リアルガーの棲み家までは、徒歩で行くしかない。
ヒスイは、リボン付ブラウスにベスト、ミニパンツに厚底ブーツという格好で。
ツーサイドアップに、ミニハットという組み合わせだ。
何をしに行くのかも知らぬまま、ベルガモットを従え、元気に歩いている。
その数歩後ろを、オニキスとコハクが肩を並べて歩く。
そして、ヒソヒソ・・・

「・・・どう思う?」
「罠、かもしれませんね」

命の保証をしたくらいで、主の居場所を明かすとは思えない。
真祖吸血鬼、それに仕える者もまた、プライドが高い傾向があるのだ。
リディのように。

「カーネリアンさんが、嘘を言ってる訳じゃない」

コハクの言葉にオニキスも頷き。

「カーネリアンは、自分が耳にした事をそのまま我々に伝えたにすぎん」
「まあ、向こうにも色々事情がありそうですし」

コハクは睫毛を伏せ、笑った。

「仮に罠でも覆せる」

いくつかの木々の間を抜けた先に、リアルガーの棲み家はあった。
湖畔の古城だ。
三人と一匹が扉の前に立つと、何やら言い争う声が聞こえ、間もなく・・・

「――らっしゃい。お早いお着きで」

リヒターが一行を迎えた。
リヒターは、狼変化時と同じ褐色の髪をしていた。
ベリーショートで、その毛先は脱色をしたような荒い金になっている。
瞳はスカイブルー。
なかなかのイケメンである。
リヒターは略称で、名はリヒターライト。
一行の案内がてら、自己紹介を済ませ、この城についてや、相棒リディコタイトについて、簡単に説明した。
が、男の娘ver.のヒスイや、面識があるはずのベルガモットについては一切触れなかった。
リヒターの話では、主人は就寝中とのことで。

「サーセンね。この辺の部屋で待ってて貰えます?」

案内された通路には、いくつか扉があった。
どの部屋も客間だという。

「自由に使って貰っていいんで」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」

と、笑顔で言葉を返したのはコハクだ。
ヒスイを連れ、正面の部屋に入る。
ベルガモットはオニキスと共に奥の部屋へと入っていった。

それぞれの扉が閉まる音が通路に響いた。
残ったリヒターはそこで一言。

「姫さん、来ちゃったかー・・・」

わざわざ、女人禁制の話をしたというのに。

「さて、どうすっかね」


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