―外伝―
TEAM ROSE
[ 21 ]
「――貴様ッ!!そこで何をしているッ!!」
オニキスの背後にひとりの男が立っていた。
口調からしてリディに違いない、のだが・・・
「・・・・・・」オニキス、閉口。
ナイトウェア姿で。髪をカーラーで巻き、そのうえ顔面パック・・・異様な雰囲気だ。
とはいえ、この流れではいつ戦闘になってもおかしくない。
そう考え、身構えるオニキス。ところが。
「!!なんだ!?ここはッ!!」と、リディ。
顔面パックを吹き飛ばす勢いで叫び、隠し部屋を覗き込んだ。
(知らなかった・・・のか?)
リディの反応からして、そうとしか思えない。
「――ッ!!最近、坊ちゃまの様子がおかしかったのは、このせいかッ!!リヒターぁッ!!余計なことをッ!!」
逆上し、身を翻す。
どうやら、この件の鍵を握るのは、リヒターであるらしい。
走り出すリディの後を、オニキスも追った。
一方、そのリヒターは。
ヒスイを抱きかかえたまま、薄暗い樹海の道なき道を進んでいた。
「え・・・あれ?」(なにここ・・・)
次第に木よりも花が多くなり、色彩豊かな場所へ。
(ジンくん、喜びそう)
モルダバイトではおそらく生息していないであろう、珍しい種の数々・・・
ヒスイが暢気に眺めているうちに、木の上に作られた建造物・・・いわゆるツリーハウスへと到着した。
広くはないが、自然味溢れる内装で、住居として充分な家具が揃っていた。
くしゅんっ!
そこで、裸のヒスイが、小さくくしゃみをすると。
「そのカッコじゃ、寒いっすよね」
そう言ったリヒターが、上着を脱ぎ、ヒスイへと差し出した。が・・・
ヒスイは眉を顰め。
「知らない男のヒトの服を借りるのは、嫌!」と、受け取り拒否。
「仕方ないっすねー・・・んー・・・確かこの辺に・・・」
近くのクローゼットを漁るリヒター。
「持ち主に黙って拝借ってのも、気が引けるんすけどね」
リヒターが言うには、ここはエルフの里らしい。
「エルフの里って言うけど・・・そのエルフはどこにいるのよ」
「追い出されたんすよ。お、これでいいっすかね」と。
話しがてら、リヒターはヒスイに女物のエルフの装束を渡した。
「追い出された?」
聞き返しつつ、ヒスイが袖を通す。次の瞬間――
「!!お兄ちゃん!?」
気配を察したヒスイが声を上げた。
直接姿は見えない、けれど。リヒターの背後に潜んでいるようだ。
「・・・降参っす」
リヒターが両手を挙げる。
背中に突き付けられた短剣。植物の雫を集めて作ったものだ。
「ヒスイから離れろ」
響く声は、コハク。しかし・・・そこでヒスイの声が裏返る。
「え!?お兄ちゃんっ!?」
「小さくなってるよ!?」
オリジナルのコハクに比べ、かなり幼い。
背丈も、ヒスイとどっこいどっこいで、女顔が際立ち、性別の判別すら難しい。
コハクが言っていた“不完全”とは、このことだったのだ。
それは分身として今ここに存在するコハク※以下コハクJr.※も理解していた。
オリジナルに対し、苛立ちすら覚えている。
とはいえ、ヒスイへの愛はオリジナルと変わらない。
守ろうとする気持ちも。独占欲も。愛欲も。
リヒターは早々に降参したが、ヒスイのオールヌードを見られた怒りで、コハクJr.もまた殺気立っていた。
「お兄ちゃん!やめて!」
ヒスイが慌てて間に入り。そして・・・
(わ・・・おにいちゃん、かわいい・・・)
いつもと違うコハクの姿に、ときめく。
ただしこちらも、腰にタオルを巻いただけの格好だ。
ヒスイは、「とにかくこれ着て!」と、一度突っ返したリヒターの上着を奪い取り、コハクJr.に着せた。
「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」
ツリーハウスでひとまず腰を落ち着けた三人。
切り株のテーブルセット、その椅子に着席しているのは、リヒターとコハクJr.だ。
ヒスイはコハクJr.の後ろに立ち、その体を両腕でしっかりと抱擁している。
以下、ヒスイの心の声。
(お兄ちゃん、ホントに女の子みたい・・・こんなに小さいんだもん、私が守ってあげなきゃ!!)
一方、コハクJr.は。
「・・・それで?これはどういうことかな?」
ヒスイの手前、笑顔で交渉にあたっていた。
「サーセンでした」
リヒターがまず謝罪し。
「姫さんに大事な話があったもんで、つい」と、続ける。
「あ、そういえば」
そこでヒスイも思い出す。
「話って、何?」
するとリヒターは顎を触りながら。
「姫さんだけ、ウチの主人に会わないで貰いたいんすよね」