World Joker

―外伝―

TEAM ROSE



[ 33 ]

どうやらヒスイは、その気になっているらしい。
喜ばしいことではあるが・・・
「トパーズがいないと、フォーメーションが・・・」と、不在を嘆く。
「・・・・・・」(トパーズよりもっと大切なもの※双子兄弟※を失ってるんだけどね!!)←コハク、心の声。
それから軽く溜息を洩らし、言った。
「じゃあ、僕はトパーズを探してくるから。ヒスイはオニキス達と先に行ってて」
考えようによっては、好都合でもある。
トパーズを探す名目で、双子兄弟を探すのだ。
すぐに後を追うからね、と、ヒスイの手の甲にキス。
そしてコハクはひとりチームを離れた。


「それでは、私がエスコートしよう、ヒスイ」
オニキスを差し置き、セレが前に出る。
その立ち振る舞いは、社交界に慣れている者であった。
「・・・・・・」(先を越されたか・・・)
王族であるオニキスも引けは取らないが・・・
コハクがいない、トパーズがいない、実は双子兄弟もいない――というヒスイの境遇を不憫に思っているうちに出遅れてしまった。
一方、ヒスイは上の空で。
差し出されたセレの手を取った。セレは苦笑いを浮かべつつ。


「では行こう、我らが姫――」



ヒスイが上の空でいられたのは、この時までだった。
いざ、パーティ会場に乗り込む・・・と。
一斉に、参加者の注目を浴びた。
ヒスイの、異彩を放つ美しさはもとより、付き従う男達の容姿端麗ぶりに、視線が集まらない筈がなかった。
吸血鬼は総じて美形が多いが、その中でも群を抜いている。
もしここに、コハクやトパーズも居たなら、更なる波紋を呼ぶことだろう。
「・・・・・・」(お兄ちゃんいないのに・・・どうしよ・・・)
緊張からヒスイは沈黙し、一言も発さない。それにより、一層美の凄みが増している。
「ここは私に任せてくれるかね、ヒスイ」
耳元でそうセレに囁かれ、ぎこちなく頷くことしかできなかった。
近付き難い美少女姫オーラを放つヒスイ。
会場のどよめきは治まることなく、何者かと問う声が上がる。
その時だった。


「あら、いらっしゃい。ふふ」


主催者レーリンの声が会場に響き、一瞬ですべてが鎮まった。
それだけの威厳を持っているのだ。
「先日は手厚い歓迎を受けたね」と、セレ。
「ふふ、こちらこそ、素敵な石像をありがとう」と、レーリンが返す。

ヒスイ達が、リアルガーの城で過ごしていた夜、シンナバーを襲撃したのは、レーリンだった。

死術に長け、命を失ったものなら何でも自在に操ることができる。
理性や感情の与奪も容易い――という。
「貴方は、ヴァンパイアプリンセスの何番目の夫だったかしら?ミスター・セレ」
「私は四番目だよ。ミス・レーリン」
「???」(一妻多夫?そういう設定なの???)
傍らで首を傾げるヒスイ。
「・・・・・・」(コハクの耳に入らんといいが・・・)
セレが勝手に付け加えた設定に、息を洩らすオニキス・・・
なまじ事実に近いだけに、訂正のしようもない。
「銀の吸血鬼・・・絶滅したと聞いていたけれど・・・ふふ・・・綺麗ねぇ・・・」
檀上に佇むレーリンの視線がヒスイに移る・・・
その視線を遮るように、オニキスが動いた。
「貴方は?何番目?」
「・・・想像に任せる」
「ふふ」と、そこで再び笑うレーリン。
視線をセレへと戻し、話を続けた。
「わたしも紹介したいひとがいるのだけれど」
「それはぜひ」にこやかにセレが答える、と。
二名のメイドが、レイリーの背後にある扉を開いた。
そこに立っていたのは――


「!!」(トパーズ!?)


思わず声を出しそうになったヒスイの口を塞いだのは、オニキスだった。
モゴモゴ動く口元を大きな手で覆い、檀上の様子を窺う。
「・・・・・・」(捕虜になっているのか?)
双子絡みであることは明白だが、今ここでヒスイに伝える訳にもいかず。


――間もなく、トパーズは、レーリンの“婚約者”として紹介された。


「!!!!」(え!?そうなの!?いつの間に!?)
途端にヒスイはパニックに陥り。
自覚のないショックで立ち眩みを起こすと、オニキスの腕の中、大人しくなった。
「・・・・・・」(なによ・・・いきなりすぎるでしょ・・・でも・・・)


恋愛するのに、私の許可がいる訳じゃないし。


「・・・・・・」(一目惚れとか?うん・・・あ・・・なんだろ・・・よくわからないけど・・・これ・・・だめな感じ・・・)
母親として、乗り越えるべき壁の前に、突然立たされた。
「・・・・・・」(まだなんの心の準備もできてないのに・・・っ!!お兄ちゃぁぁぁんっ!!)


「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」


それからしばらくの間、無言で思考の海を漂い。
ヒスイは、顔を上げた。
(決めたっ!!)


何が何でも祝福する!


(舌を噛んだって。血を吐いたって。あとで泣いたって)


変わらずずっと傍にいて――なんて言う権利、私にはないんだから。


(トパーズが、そのレーリン・・・さん?っていうヒトのこと好きなら、きっとそれでいいの!)


間違ったハッピーエンドへ向かおうとするヒスイ。
見兼ねたオニキスが。
「――ヒスイ、聞け」
ヒスイを抱き込み、声のトーンを落として言った。
「考えすぎるな」
「え?」
「これまでのトパーズを信じてやれ」
「これまでのトパーズ?」
「そうだ、あいつはお前に何と言った?」


『――好きだ――』


「はっきりとそう言った筈だ。心変わりなどするか」
「なんでそんなことわかるの?」
「オレも同じだからだ。“その程度のもの”と思われては堪らん」
「ん〜・・・そうなの???」
少々間の抜けた声でヒスイが返す。
「だとしたら、この状況は何なの?」
「・・・・・・」
これを話したら、芋づる式に秘密がバレる。
(・・・が、今はそれどころではない)
トパーズが大人しく敵に従う程の事態――


「おそらく、ジストが人質に取られている」

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