World Joker

―外伝―

TEAM ROSE



[ 34 ]

「――え?人質?それってどういう・・・」


オニキスの腕の中、ヒスイは目をぱちくり。
オニキスは、極力話し声が漏れないよう、ヒスイを更に深く抱き込んだ。
「少し前に、あーとまーが攫われた」
「あーくんとまーくんが?え?なんで???」
「それは後で話す。とにかく、だ」
双子兄弟はこの城のどこかにいて。
ジストとトパーズが捜索しているはずだった。
しかし、ジストの姿はなく。奪還の報告も受けぬまま、トパーズがレーリンの婚約者になっている、この状況・・・
何かトラブルがあったに違いないと、ヒスイの耳元で告げる。
「じゃあ、お兄ちゃんは・・・」
「あーとまーを探しに行っている。あいつなら何とかするだろう」
本来、コハクは優秀なのだ。だからこそ、オニキスも余裕を持っていられるのだが・・・
当然、ヒスイはむくれて。
「もぉぉぉっ!!お兄ちゃんはぁっ!!」
怒りで暴れ出しそうなヒスイを紳士的に拘束するオニキス。

・・・傍目には、イチャついているようにしか見えない。

すると、レーリンは。
「ふふ、仲が良いのねぇ・・・」
それなら私も――と、トパーズに身を寄せた。が。


「トパーズに触らないで!!」


そこでヒスイが牙を剥く。
自分が極度の人見知りであることを忘れ。声を張り。


「トパーズは私のむす――」


勢いで、そこまで言ったところで、オニキスの手がヒスイの口を覆った。
続けてセレがヒスイを覗き込む。
「ヒスイ、“設定”を覚えているかね?」
「設定?今はそれどころじゃ・・・」
「いや、ここはなりきれ」今後を考え、オニキスが言い聞かせる。
「っ!!そもそもヴァンパイアプリンセスってどういうキャラなのよっ!」
「コハクから聞いていないのかね?」
「・・・カンペ出すから、その通り言えばいいって」
「まったく、あいつは・・・」
目を惹く美形が集まり、ヒソヒソヒソ・・・
吸血鬼界に戦慄を走らせるはずのチームロゼ像が早くも崩れそうだ。

そうしてやっと話がまとまり。

オニキスが一歩前に出る。
「どういうつもりか知らんが、お前の隣に立っている男は、我らがヴァンパイアプリンセスの眷属だ」
そう言って、まずはトパーズの反応を窺う。
ここでトパーズ自身が否定するようならば、脅しをかけられている可能性が高く、やはり只事ではないのだ。
(こちらも上手く立ち回らなくてはならん)

ところが、レーリンは。

「あら、そうだったかしら?ふふふ、ごめんなさいねぇ」
あっさりと、トパーズを解放。
「ああでも、折角だから“証明”して貰おうかしら」
レーリンのその言葉に会場が色めき立つ。
(証明?何の???)
きょとんとした顔で首を傾げるヒスイ。※天然鈍感※
この場合、夫婦であることの証明で。口づけあたりが妥当なところだが。
これまで沈黙を貫いていたトパーズは、ヒスイの腕を掴み、言った。
「いいだろう。一晩かけて証明してやる」




「え?ちょっ・・・トパ???」
メイドの一人に案内された先は、シャンデリア諸々、やたらと装飾が豪華な寝室だった。
そこにトパーズと二人残され、鍵を掛けられる。
「――来い」
上着と呼べるものはすべて脱いだトパーズにベッドへと連れ込まれ。やっとヒスイも理解した。
「あ・・・」(証明ってそういう・・・)
それからすぐハッとして。
今それどころじゃな――と、言いかけたところで、上から、今度はトパーズの手で口を塞がれた。
「黙ってろ。見張られてる」
「・・・・・・」(ホントにどうなってるの?お兄ちゃんは?ジストは?あーくんとまーくんは無事なのよね???)
訊きたいことは山ほどあるというのに。
ベッドカバーを引き上げ。
「いいか、ヤッてるフリをしろ」と、トパーズ。
ヒスイの耳を食み、容赦なく言い放つ。


「喘げ」


「っ〜!!」
できるわけないでしょ!!口パクで必死に言い返すも。
器用な指先にたちまちドレスを脱がされ。
「ちょっ・・・えっちな演技なんて無理に決まって・・・」
思わず声が出た瞬間、長い指を口の中いっぱいに詰め込まれた。
「ん・・・んぅ・・・」
トパーズはヒスイを見下し、意地悪に笑った。


「自分で喘げないなら、喘がせてやる」





その頃――コハクは。

双子兄弟の気配を辿り、城内奥まできていた。
「・・・・・・」(隠す気はないみたいだな)
コハクが扉を開けると、ベビーベッドが二つ。
「ひしゅ〜・・・」「あ〜ぅ・・・」
アイボリーとマーキュリーの声が聞こえ、安心したのも束の間・・・
「!?」
何者かが殴り掛かってきた。
コハクの身体能力を以てすれば、どんな攻撃も躱せる、が。
強襲より、その相手に驚く。
「――ジスト!?」
ジストは何かを呟きながら、コハクに対し蹴りを繰り出した。
それも避けたが・・・背後の壁が砕けるほどの威力。人間が食らえば、即死レベルだ。
「・・・・・・」(本気で僕を殺しにきてる・・・どうなってるんだ?これ?)


「あーとまーはわたさない・・・だれにも・・・わたしちゃいけないんだ・・・」


いつもの、はつらつとした表情は見る影もなく。その瞳に宿るのは、敵意。
どうやらコハクをコハクと認識できていないようだ。
「・・・・・・」(催眠?神の子に?)
幸いジストはまだグングニルを手にしていない。
「・・・・・・」(それでも神の子だ。僕とは相性が悪い)


「さて、どうしようかな」


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