4話 蕩けるようにできている。
翌日。学校帰りの双子は、寄り道をしていた。
城下市場に時折出没するという、“仮面の男”に会うために。
学校で噂になっているのだ。
オレンジ色の仮面を被ったその男は、ハロウィンの仮装めいた格好をしているという話だが、季節外れもいいところで。
大人達には気味悪がられ、反面、子供達の興味を惹く謎の人物・・・。
仮面の男と話をすると、それはそれは美味しい飴玉が貰えるとかで、好奇心旺盛の子供はきまって挑戦したがる。
これは、度胸試しのようなもので。仮面の男とのコンタクトに成功すれば、一躍ヒーローなのである。
「マジでいた!!!」
アイボリーは興奮気味に瞳を輝かせた。
「なんだか怪しいよ、あの人」
マーキュリーは警戒している。
とはいえ、二人揃えば怖いものなどない。前進あるのみだ。
「何やってんの?」
物怖じせず、仮面の男に話かけるアイボリー。
仮面の男の前には、摩訶不思議な品物がたくさん並んでいる。どうやら、路上で商売をしているらしい。
「御覧の通り。おひとつ如何でしょう?」と、仮面の男。口調はとても紳士的だ。
「おいくらですか?」敬語で聞き返すマーキュリー。
どの品物にも値札がついていなかったため、不審に思ったのだ。
対して、仮面の男は。
「試供品のため、無料で差し上げます。これなど如何でしょう、お坊っちゃん」
勧められたのは、小型のキャリーバッグ。
「蓋を開け、呪文を唱えれば、どんな物でもこの中に収まります」
その性能は、ブラックホールが如し、と。仮面の男の、商品説明。
「それ欲しい!!!」
すかさず名乗りをあげたのは、アイボリーだ。商談成立で、握手を交わす。
こうして、アイボリーは、仮面の男からキャリーバッグと・・・アンデット商会のメンバーズカードを受け取った。
市場を離れたあと、アイボリーがポケットを探ると、噂通り飴玉が入っていた。マーキュリーのポケットにも、だ。
それぞれ一粒ずつ、ビー玉そっくりの飴玉はとても美味しそうで。
二人とも生唾ゴックン・・・だが。アイボリーはすぐにそれをポケットにしまった。
「あーくん?食べないの?」
「食べない!これ、めっちゃウマいって話だからな!ヒスイに食わしてやるんだ!」と、アイボリー。
「知らない人から貰ったものを、お母さんにあげるのはどうかと思うけど・・・」と、マーキュリー。
物事にやたらと慎重な姿勢は、7歳児とは思えない。
「それで、これどうするの?」
思いがけず手に入れた、魔法のキャリーバッグ。当然、悪戯に使う。
「ヒスイとコハクがえっちしてたら〜」と、早速アイデアを述べるアイボリー。
“えっち”の意味は、兄ジストから教わった。なんとなくではあるが、わかる。
「・・・なっ!!超、面白くねぇ!?俺って天才!!」
声高らかに、自画自賛。一方、マーキュリーは・・・
「それまた、お仕置きされるよ。昨日みたいに、僕らも同じ目に遭う」
「できるもんか!洋服ぜ〜んぶ隠したら、ヒスイもコハクもスッポンポンだぜ!」
外に逃げてしまえば、追ってはこられない筈。アイボリーが熱く語る。が。
後のことは・・・考えていない。
「バカな弟を持つと苦労するね」
マーキュリーは、柔らかな銀の癖っ毛を弄りながら文句を言ったが、今日もやっぱり悪戯の片棒を担いでしまう。
「なんだよ、ちょっと背が高いからって。大人ぶってさ。女子にチヤホヤされちゃって」
と、脱線気味に不貞腐れるアイボリー。
「・・・それ、今関係あるの?」
「関係ないけど!俺の方が、まーより100倍イケてんだからな!」
「はいはい、それでいいよ」
「・・・・・・」(なんだよ、今の・・・)
適当にあしらわれている感が否めない。
口を尖らせ、見上げるアイボリー・・・すると、マーキュリーは。
「とりあえず、目標達成したらスピネル兄さんのところへ行こうよ」
「!!いいな!それっ!」
双子は元気よくハイタッチを決め。
「そんじゃ!」「うん」
「「作戦開始!!」」
その頃、ベッドの上では。
※性描写カット
「お疲れ様」と、ヒスイをキスで労ってから。
コハクは、着替えを取りにベッドを出た。ところが。
「・・・どういうことだろう。これは」と、裸のまま両腕を組む。
「服が・・・一着もない」
クローゼットも衣裳部屋も。
帽子、靴、バッグ類は残っているが、下着からエクソシストの制服まですべて忽然と消えていた。
ランドリーボックスの衣類も、外に干した洗濯物も、行方不明だ。
本当に、着るものが何もない。
そこで双子の顔が浮かんだが・・・
(子供の悪戯にしては出来すぎてる・・・)
服の数も下着の数も相当なもので。気付かれずに、そのすべてを隠すなど、魔法を使わなければ不可能だ。
「何か・・・悪戯道具でも手にいれたかな」
コハクは苦笑いを浮かべ。
(さて、どうしようかな)
こちら・・・国境の家。
ここにも、驚きで唖然とする人物がいた。スピネルだ。
「あーくん、まーくん・・・何してるの?」