5話 CandyCandy
国境の家。その庭には、シロツメ草が咲いている。
オニキスのために、スピネルが植えたものだ。
しかし今・・・双子によって滅茶苦茶に荒らされていた。
花はおろか、根こそぎ抜かれている。そのうえ。
「・・・・・・」(ボク、目がおかしくなったのかな)
アイボリーもマーキュリーも、靴は履いているが、服を着ておらず。目を疑う格好だ。
「・・・・・・」(裸の王様みたい)
どこから正していけばいいか、教師のスピネルでもわからなかった。
本日の帰宅は、通常より大分早い。久々に兄弟で飲む約束をしていたのだ。
ここ、国境の家が待ち合わせ場所になっていた。
ジストもサルファーもまだ到着していないというのに、なぜか双子が来ている現状。
弟達を家に入れ、とりあえずTシャツを着せてから。
「一体どうしたの?パパとママは?」と、尋ねるスピネル。
双子の持ち物は、小型のキャリーバッグひとつ。まるで家出でもしてきたかのように見える。
「へへん!聞いて驚くなよ!って、邪魔すんなよ!まー!」
「あーくんはちょっと黙ってて」
得意気に話し出したアイボリーを押し退け、マーキュリーが説明を始めた。
遡ること、約1.5時間・・・。
“屋敷じゅうの洋服という洋服をキャリーバッグに”
勝手にそう呪文を唱えたアイボリーのおかげで、自分達の洋服まで全部なくしてしまった。
「フルチンになっちった」と、頭を掻くアイボリー。
てへへ!舌を出して誤魔化すも、マーキュリーはご立腹で。
「てへへ、じゃないよ。だから、もう少し考えて、って言ったんだ、僕は。人の話は最後までちゃんと聞いてよ。あーくん、バカ丸出し」
「まーだって、チンコ丸出しじゃんか」
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
「・・・という訳です。スピネル兄さん」
開き直ったのか・・・マーキュリーは妙に冷静だ。
「うん、わかった」
そこまでは、まあ・・・笑い話。だが、庭の件は別だ。
シロツメ草の残骸を見ると、切なくなる。
オニキスに何と言えば良いか・・・その、白く小さな花に込められた想いを知らないとはいえ、残酷に思えて。
「どうして抜いたりしたの?」
スピネルは少々困った顔で尋ねた。
「ちゃんと柵も作ってあったよね?」
「・・・・・・」「・・・・・・」
雑草だと思ったから。四葉のクローバーを探していたから。
言い訳は色々あるが、双子は黙って。その時。
「スピネル!?なんかあったのっ!?」
庭の惨状を見て、慌てて駆け込んできたのは、ジストだ。サルファーもいる。
「・・・へ?何?あーとまーが毟っちゃったの???」と、ジスト。
「ばぁか、人ん家の庭荒らしたら、犯罪だろ。しかも裸ってなんだよ」と、双子を小突くサルファー。
「その通りだ」
続けて、トパーズの声。怒りのオーラを纏って、双子の前に立った。
「器物損壊、わいせつ物陳列罪、ブタ箱行きだ、馬鹿ガキ共」
・・・と、思いっきり見下す。
「!!トパーズ怖ぇぇぇ!!!」
長男の出現に震え上がる双子。スピネルは苦笑いで。
「まだわいせつ物って歳じゃないよ」
「オレ達はもうアウトだけどなっ!」
そう言って、ジストも笑う・・・が。
「お前、わいせつな使い方してないだろ」
サルファーに馬鹿にされる。
「う・・・」
肩を落とすジストに、スピネルが優しく声をかけた。
「ボクもだよ」
「スピネル・・・も?」
「うん。お互い頑張ろう」
童貞同士が結束を固めたところで、閑話休題。
「あ、そうだっ!」と、ジストは双子に向き直り。
「白くて、小さくて、可愛いもの、な〜んだ?」
いきなりクイズを出した。
「俺、わかったっ!ヒスイだ!!」
アイボリーが身を乗り出して答える。するとジストは。
庭で拾ったシロツメ草の花を双子に見せて、「オレ、この花好き」と、キスをした。
「これもさ、白くて、小さくて、可愛くてっ!ヒスイみたい、だろっ?」
「ヒスイ・・・みたい・・・」
言われてみれば、確かにそうで。こくり、双子が頷いた。
「だから、大事にしてたんだ。ここまでわかる?」
双子は、ハッとしたようにジストを見上げた。“大事なものを壊してしまった”“悪いことをした”と、理解したのだ。
「勝手に抜いちゃ、だめだよ、なっ?」
ジストの言葉にまた頷いて。
「ごめんなさい」
マーキュリーが率先し、頭を下げる。そして。
「あーくんも」
アイボリーの頭を掴んで、無理矢理下げさせた。
「なにすん・・・だよっ!やだっ!!」
アイボリーはいつも素直に謝ることができない。
人に頭を下げるのが嫌いで、“ごめんなさい”が言えない、困った子なのだ。
「もうしない、って、約束してくれたらそれでいいよ」と、スピネル。それから。
「ありがとう、ジスト」
「うん?なにっ?」
穏便に、双子を改心させてくれたことに礼を述べたのだが、ジストはわかっていない。
「くすっ、ジスト、小学校の先生やればいいのに」
「へっ?オレが???」
一方、家の外では。
「な・・・んだ、これは」
散らかった庭を見て、立ち止まるオニキス。
続けざまに、どんっ!背中にぶつかってきたのは・・・
「ヒスイ、どうした」
「オニキス!あーくんとまーくん知らない?」
赤い屋根の屋敷と国境の家は魔法陣で繋がっているため、格好の避難場所なのだ。
「知らんが・・・」
オニキスが再び庭に目を遣ると、ヒスイもつられてそっちを見て。
「・・・あっ!!!」
悪戯の気配を察知し、家の中へと走り込む。
「あーくん!まーくん!」
「お兄ちゃんを、甘く見ないでよね!」
NEWワンピースを着て、双子の前に現れたヒスイ。
((なんで裸じゃないの?))
アイボリーもマーキュリーも驚きで大口を開けている。
ベージュの布を贅沢に使った、フリルワンピース。
その正体は・・・カーテンだ。
コハクは、あっと言う間に服を仕立て、全裸の脅威からヒスイを守ったのだ。
「お兄ちゃんは、凄いんだから!」
エッヘン!両手を腰に、なぜかヒスイが威張る。
「パンツも縫ってくれたんだよ!」と、勢いに乗って。
手縫いを自慢すべく、スカートの裾を持ち上げた。男子7名の前で、だ。
「!!」×7。
ジストは大慌てて飛び出し、数多の視線を遮った。
「ヒスイ!!だめだよっ!!パンツ見せちゃ!!!」
「?だってみんな息子・・・」
「息子でも、男なのっ!!」
ジストにたしなめられ、渋々ヒスイはスカートを離した。
すぐに気を取り直して。
「とにかく、お兄ちゃんの勝ちなんだからっ!」と、勝利宣言。
コハクが即席で作ったワンピースを着て、ヒスイがエクソシストの寮に予備の着替えを取りに行ったという・・・つまり、コハクもスッポンポンではない。
「・・・・・・」「・・・・・・」
作戦、失敗。これでは洋服を隠した意味がなく。父にはまだまだ敵わないことを、認めざるを得ない。
アイボリーは口を尖らせ、キャリーバッグを開けた。
内側のブラックホールから、空へと壮大な虹が掛かり・・・静かに消える。
すべてが元の場所に戻ったのだ。
面白いことに、双子の体にも服が戻り、借り物のTシャツと重ね着になった。
アイボリーはズボンのポケットを探り・・・
「ヒスイ!手、出せ!」
「うん?」
「これ、やる!」
ヒスイの手のひらに飴玉を落とした。仮面の男から貰ったものだ。
「すっげぇウマいんだって!」
「へぇ〜・・・」
それを聞いて、ヒスイも生唾ゴックン。早速飴玉を口の中へと放り込む・・・かと思いきや。
「ヒスイ?食べないの?」
「うん、そんなに美味しいんなら、お兄ちゃんにあげようと思って!」
ヒスイに悪気はないが・・・好意の横流しは何気に罪で。アイボリーの機嫌を損ねてしまう。
「・・・なんでそーなんの?ヒスイのバカっ!!」
アイボリーはパンパンに頬を膨らませ。フグ顔で走っていってしまった。
「え?ちょ・・・あーくん?」
次の瞬間。
「食え、馬鹿」
トパーズがヒスイの頭を鷲掴む。
「もう少し子供の気持ちを汲んでやれ」
オニキスも溜息で。
「ママ・・・そこは食べてあげた方が・・・」と、スピネルにまでダメ出しされるヒスイ。相変わらず・・・子育て下手だ。
「え?そうなの???」
ヒスイが目をぱちくりしていると。マーキュリーが寄ってきて。
「これ、どうぞ」と、自分の飴玉を差し出した。
「お父さんの分です。ふたりで食べてください」
「え?ちょ・・・まーくん?」