World Joker/Side-B

6話 愛は変わらず



マーキュリーはアイボリーの後を追って廊下に出た。

2階への階段を5段ほど昇ったところでアイボリーを発見し。

「あーくん、ちょっと怒り過ぎ。お母さん、困ってたよ」

落ち付いた口調で言って、隣に腰を下ろす。

「カルシウム足りないんじゃない?もっと牛乳飲みなよ」

「わーってるよ!」

アイボリーは・・・完全にイジけている。

「俺はっ!ヒスイに食べて欲しかったの!」

と、双子の兄に本音をぶち撒けた。

「だって・・・みんなあげてるじゃんか。コハクだって、トパーズだって、ジストだって」

いつもヒスイにお菓子を食べさせている。

甘いものを口にしたヒスイが、とても幸せそうな顔をするのを、アイボリーは知っていて。

「俺もあれやりたかったのぉっ!!」

もうこの歳で、親兄弟と張り合う気でいる。

「・・・あーくんて、マザコンだよね」

「悪ぃかよ!ヒスイは超可愛いんだぞっ!」

「でもお母さんだからね。お嫁さんにはできないよ。あーくんだってそこまでバカじゃないよね」

「・・・・・・」←ちょっと思ってた。

アイボリーはタコのように口先を尖らせ・・・それから立ち上がった。

「あーくん?どこ行くの?」

「トパーズんとこ」

兄弟達が集まる部屋へと戻る。

 

 

「トパーズ!!金貸せ!!」

 

 

高校教師であるトパーズに対し、何故か偉そうな小学生アイボリー。

「一番金持ってそう」という理由で、狙いを定めたようだが・・・

「クク・・・いいだろう。いくらでも貸してやる。ただし、1時間20%の利子―」

「兄ちゃんっ!弟にそんな意地悪すんなよ!」

トパーズを制し、ジストが前に出た。

「何?欲しい物あんならオレが買って・・・」

すると、今度はサルファーがジストを制し。

「そうやって甘やかすなよ。ロクな大人にならないぜ」

「いいだろっ!兄弟なんだから!ケチケチしなくたって」

ジストとサルファー・・・2人は弟の育て方について揉め始めた。そうなると、スピネルの出番で。

両手を膝に、低く屈んで、アイボリーを覗き込んだ。

「どうして急にそんなこと言い出したの?理由を聞かせて?」

「ヒスイを復活させんのに、金が必要なんだよ」と、アイボリー。

続けてすぐマーキュリーがこう通訳した。

「シロツメ草の庭を元に戻したい、と、言っています。お花屋さんで種を買うつもりのようです」

「「なんだ、そういうことか」」ジスト&サルファーが笑って。

「だったら、明日、ジン義兄さんのところへ行こう」と、スピネルも笑う。

「きっと力を貸してくれるよ」

そう言って、頭を撫でてやると、双子に笑顔が戻り。

「ねぇ、ヒスイは?どこ行ったの?」

アイボリーは室内をキョロキョロと見回した。

「ヒスイぃ〜?」

ヒスイを探し、うろつき出したアイボリーを、スピネルは両腕でハグして。

「邪魔しないであげて」

耳元で、優しくそう言い聞かせた。

 

ヒスイは・・・オニキスと共に姿を消していた。隣の部屋に、だ。

 

窓辺に立ち、掘り返された庭を見て。

「ごめんね。なんか、あーくんとまーくんが酷いことしちゃって・・・あとで“めっ!”てしとくから」

「その前に飴玉を食ってやれ」

オニキスは苦笑いだ。

「あ、うん」

「気にするな。シロツメ草は繁殖力が強い」

根城とした場所から、そう簡単に姿を消すものではないのだ。

「またすぐ元に戻る」

「うん」と頷くヒスイの肩を正面から掴むオニキス・・・首筋へのキスは“食事”の催促。

ヒスイもわかっていて。じっとしている。

だがオニキスは、口を少し開いたところで、迷いを見せた。

「・・・・・・」

ここのところ疲れ気味で。そういう時は勃起しやすいのだ。

そもそも、吸血鬼たるオニキスが人間並に疲労するのは、慢性的に血に飢えているせいだ。

「もうすぐ夏だし、飲んでおいた方がいいよ」と、吸血を勧めるヒスイ。

ご丁寧に、長い銀髪をすべて片側に避け、白い首筋をオニキスの前に晒した。

「はい、どうぞ」

キスでも待っているかのように、上向きで目を閉じて立っている。

「・・・・・・」

牙も、男の部分も。渇いてカラカラ。潤いが・・・ヒスイが欲しいに決まっている。

「今日は・・・勃つぞ」

オニキスは仕方なくそう打ち明けた。

「うん???」

ヒスイは数回瞬きをしてから、「いいよ」と答えた。

 

欲情の許可を得ると、すぐにオニキスはヒスイを抱き寄せ、再び首筋に口づけた。

唇の間から舌を伸ばし、ヒスイの薄い皮膚に唾液を滲み込ませる・・・吸血の準備、注射の前の消毒と同じだ。

「・・・・・・」

ヒスイの体に穴を開け。そこから赤い糸を吸い出して、自身のものと結びつける・・・オニキスにとってはこれがヒスイとひとつになる瞬間である。吸血鬼特有の快感かもしれない。

 

ヒスイの血液が下半身へと流れていく・・・そして。

 

思った通り、硬く張ってきた。

「・・・・・・」

そこは、大人の男として意地でも制圧するが。

「・・・・・・」(まったく・・・子供には見せられんな)

 

 

 

「ん・・・はぁ・・・」

かなりの量をご馳走したため、ヒスイもすぐには動けず。

「大丈夫か?」

オニキスは、そんなヒスイに胸を貸し、大事そうに肩を抱いて。

一度だけ額にキスをした。それから、お互いの体が冷めるまで、ピロトークならぬ、トークタイム・・・

「・・・え!?プラネタリウム!?」

話を聞いた途端、顔を上げるヒスイ。

「ああ、もうすぐ完成する」

プラネタリウムはドーム型の建造物で。

太陽が出ていても、雨が降っていても、室内で、好きな時に好きなだけ星が見られる。ヒスイにとっては嬉しい話だ。

「本物の星ではないが・・・」

「でもすごいよ!お父さんの魔法みたい!!」

ヒスイが笑みを溢すと、オニキスも目を細め、微笑みを浮かべた。

「できたら絶対行くね!!」

「ああ」

天文学の発展はオニキス自身の夢でもあったが、ヒスイの夢でもあって。

今は・・・それを叶えてやることくらいしか、愛を伝える方法がない。

「・・・・・・」

時が経てば。こんな風に。

 

 

愛は変わらずとも、愛し方は変わっていく。

 

 

(変わっていくしか・・・ないだろう)

諦めている訳ではなくとも。感情に任せて、求めたり奪ったりできる関係ではなくなってきている。それが少々寂しくもあるが。

(長い刻を生きる代償として、受け入れていくしかあるまい)

 

 

 

そして、月が昇り。こちら、赤い屋根の屋敷。

 

「「「ただいま〜!!」」」

右にマーキュリー。左にアイボリー。ヒスイを真ん中に、手を繋いで帰宅した。

「ヒスイ、おかえり。あーくんとまーくんも」

コハクはエクソシストの黒衣+腰巻エプロン姿で3人を迎えた。

任務の合間を縫って、妻と子供に食事を与えにきたのだ。またすぐ外出しなくてはならない。

「ごめんね、時間がなくて」

手早く調理してしまった、と、コハクは言うが。

今夜は・・・異世界料理の代表格、生ラーメンだ。※塩味。

手打ち麺に、輝くスープ。美しく透き通っていて、ほのかにレモンの香りがする。

見た目からして、かなり食欲をそそる・・・コハクは、ラーメン作りも名人級だ。

「ひゃっほう!チャーハンもあるぜぃ!!」

お腹を空かせたアイボリーは大喜びだ。しでかした悪戯のことはもう忘れている。

が、片割れのマーキュリーは、俯き気味にコハクの機嫌を伺っていた。

今のところ、コハクが悪戯の件に触れる様子はない。

「はい、ヒスイ。熱いから火傷しないようにね」

コハクは、まず先にヒスイの席へと、両手でどんぶりを運んだ。

「ふぁ〜・・・おいしそう〜・・・」

湯気に包まれ、口元を緩めるヒスイ。

ところがその後。

 

 

「!!お、おにいちゃ・・・」

 

 

(あーくんとまーくんのラーメンに指入ってる!!!)

双子のどんぶりに、親指IN。

不衛生なラーメン屋のような、この嫌がらせは、当然わざとだ。

そしてにこやかに。

「あーくん、まーくん、帰ったらお仕置きね」

 

 

 

コハクのいないダイニングキッチン。

ズズズーッ・・・3人で麺を啜る。

劇的な旨さだが、お仕置き宣告された双子のテンションは上がらない。

「大丈夫だよ、お仕置きって言っても、裸で庭に放り出されるくらいだから」

蓮華でスープを掬い、ヒスイが言った。

「大きな葉っぱ用意しとけば、ちゃんと前も隠せるし!」と、ズレたアドバイスをする。

「・・・・・・」「・・・・・・」((また裸になるの?))

葉っぱがあるだけマシかもしれないが、あまり頼りにならない母親だ。

 

と、ここで話は変わるが・・・

 

双子の通う学校では、もうすぐ授業参観がある。

家族についての作文を発表することになっていて。

次なる悪戯を思い付くアイボリー。

ナルトを口に入れ、くふふ、と笑い。

(俺、コハクのこと思いっきり書いちゃお♪)
ページのトップへ戻る