World Joker/Side-B

7話 快感トリック

 

週末、一家はショッピングへと出掛けた。ワンピースに化けてしまったカーテンを新調するため・・・と、もうひとつ。授業参観に向けての準備だ。

愛妻のヒスイに何を着せるか、コハクにとっては重要な問題なのである。

ここ6日ほど、ヒスイとエッチもできないほど忙しかったので、今日はデート気分で張り切っている。

 

なにせ、三つ子より手の掛かる双子で。

ハッポースチロールの雪を降らせてみたり。

家中に香水を撒き散らしてみたり。

“う○こ爆弾”と言う名の泥だんごでコハクに戦いを挑んできたり。

家事と仕事と悪戯の後始末で、なかなかヒスイとの時間が作れなかったのだ。その分、今日は尽くすつもりでいる。

 

余談だが・・・一度は屋敷に戻ってきたトパーズが、再び屋敷を出ていってしまったのも、双子が仕事と恋路の邪魔をするからだ。

 

 

 

 

モルダバイト城下、専門店街。オープンしたての洋服屋にて。

 

「これ、よくねぇ!?」

「お母さんにはこっちの方が・・・」

双子も積極的に洋服選びに参加・・・だが、早くも好みが分かれている。

「ちょっと試着してみるから、待っててね」と、コハク。

それぞれが選んだ服を手に、ヒスイと試着室に入る・・・パタン、薄い扉を閉めた。

(あれ?なんか・・・)ヒスイ、心の声。

コハクと二人で試着室に入るのは、珍しいことではないのだが。

ここのところ双子に振り回されっぱなしだったせいか、二人きりの空間を意識してしまう。なぜだか妙に照れ臭い。

 

ドキドキしながら白のニットワンピースに着替え、鏡越しにコハクを見て、さらにドキドキ・・・

「うん、これも似合うね。すごく可愛いよ、ヒスイ」

褒め言葉を貰い、いつも通りにキスをして。

ところが。

(あれ?あれれ???)




※性描写カット
 

 

「はーい、お待たせ」

 

コハクが試着室の扉を開けると、双子が並んで待っていて。

ヒスイを見るなり・・・驚いた。

「ヒスイ!?どーした!?顔真っ赤じゃんか!!」と、アイボリー。

「お母さん、息切れしてるけど・・・試着ってそんなに大変なんですか?」と、マーキュリー。

「う・・・うん・・・まぁ・・・」ヒスイは言葉を濁し、俯いた。

やましさから、子供達と目を合わせられないのだ。

(は・・・恥ずかしいぃぃぃ!!!)

エッチをするつもりで、コハクと試着室に入った訳ではなかった。

(それがなんであんなことになったの???)

自分でもよくわからない。が、くすっとコハクが影で微笑む。

(成程・・・ね)

6日間辛抱して、試してみた甲斐があったと思う。

(ヒスイの我慢の限界は“6日”ってとこかな)

それを過ぎると、自ら快感を求めてくる。今日みたいに。

(うんうん、そんなヒスイも可愛いなぁ・・・)

 

 

・・・と、その時。店内で偶然の出会いが。

 

 

「オーケン先生!!」と、双子が駆け寄る。

オーケンとは、担任の名である。

彼は、ラリマーとルチルの息子で、外見年齢は20代前半。髪の色も瞳の色も父親譲りだ。

ホストのバイトをしていただけあって、かなり垢抜けていて、リング型のピアスが3つ・・・はっきり言って、小学校の教員には見えない。

「あー、ども」と、オーケン。

コハクに向け、頭を下げた。生徒の保護者に対するものより深く、義を重んじて。

「コハクさんは敬えって、親父に口煩く言われてんすよー」

それを聞いてコハクは笑い。

「いやいや、こちらは息子がお世話になっている身だし」

改めて、挨拶をした。

「あー、そだ。来週授業参観なんすけどー」

「勿論、行きます」と、コハク。

授業の内容は、家族についての作文の発表会と聞いている。故に。

「今から楽しみにしてるんですよ」

 

 

 

 

そして・・・授業参観、当日。

 

 

ヒスイのスタイルは、瞳の色と合わせたエメラルドグリーンのワンピース。

ノースリーブだが、レースのハイネックにリボンが付いていて、キュートに上品だ。

少しヒールのある靴で、母親の気合いを見せている。

コハクが選び抜いただけあって、とてもよく似合っていた。

一方コハクも、さりげなくスーツを着崩して。美形が際立っている。

二人手を繋いで教室の扉をくぐると、いつものことながら、周囲がざわつく。

「おおぃ!!ヒスイぃ!!コハクぅ!!」

アイボリーが両腕を振り回し、夫婦がそれに答える。

マーキュリーは控えめに振り返っただけだったが、それでも両親の存在を確認すると嬉しそうにしていた。

 

「えー、今日は授業参観ということでー」

黒板の前に立つオーケンは、保護者の目を意識してか、地味めのポロシャツ姿だ。無論ピアスなどしていない。

クラスの生徒は20人で、全員が順番に作文を発表することになっている。

座席はあいうえお順。従って・・・

「はい、じゃー、アイボリーくん」

「ういっす!!」

一番手のアイボリーは元気良く立ち上がり。良く通る声で作文を読み上げた。

タイトルはベタに『ぼくのおとうさん』だ。

「ぼくのお父さんは・・・」と切り出し、そして一言。

 

 

 

「極道です!!」

 

 

 

「・・・うん?」(極道???)

笑顔のまま固まるコハク。アイボリーは誇らしげに話を続けた。

「背中にすごい刺青があって!毎日刃物を振り回しています!」

「!!」「!!」

コハクとヒスイだけでなく、教室全体が緊迫する。

刃物を振り回す〜というのは、包丁で料理をしている〜の意だが、紛らわしい表現が誤解を招き。刺青に至っては真実のため、弁解できない。

次の瞬間、コハクは我が子を拉致した。

保護者の群れから飛び出し、机の間を抜け、原稿用紙を持ったアイボリーを抱え上げる・・・

「どうもすいません。うちの子に構わず、授業続けてください」

はははははは!!謎のヒーローのような笑い声を残し、アイボリーと共に教室を去るコハク。

すると、必然的に。

逃げ遅れた、極道の妻、ヒスイに視線が集まる。

「ち・・・ちが・・・」

(お兄ちゃんはヤクザじゃないもんっ!!)

そう言いたくても、極度の緊張で言葉が出ない。全身が紅潮し、立ち眩みすら覚える。

その時だった。

 

 

「今のは冗談です」

 

 

マーキュリーが立ち上がり、ヒスイに変わって注目を集めた。

クラスで一番背が高く、甘いマスクのマーキュリー・・・保護者だけでなく、女子の視線も釘付けだ。

「弟は・・・ひょうきん者で」

少し考えた末にそう言って。

「教室の雰囲気を明るくしようとして、あんな事を言ったんだと思います」

結果的にスベった、ということになるが。悪戯の尻拭いなら、これで充分だ。

「お騒がせしてすみませんでした」と、マーキュリーは丁寧に頭を下げた。

弟アイボリーが謝れない性分のせいで、兄マーキュリーは謝り慣れているのだ。

(まーくん!!なんて言い訳上手なのっ!!)

口下手なヒスイは、心の中で拍手喝采だ。

 

 

こうして、授業参観の危機は乗り越えた・・・が。

 

 

数年後。

双子は、最大にして最後ともいうべき、途方もない悪戯をしでかすのだった。

 
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