World Joker/Side-B

8話 危険思想



赤い屋根の屋敷。双子―15歳。

空部屋はいくらでもあるが、双子は好んで同じ部屋で生活をしていた。
机を並べて学び、二段ベッドで眠る。なぜかお風呂まで一緒だ。
そしてこの日の早朝・・・

「これって、夢精だよな!?」

と、アイボリー。
保健体育の授業で習った。男として成長している証だ。

「やりっ!!」

双子の兄マーキュリーに報告しようと、ベッド下段に逆さ顔を出す。

「・・・れ?まー?いねーの?」

そこにマーキュリーの姿はなかった。
一足先に大人の階段を昇ったことを自慢する気でいたのに・・・がっかりだ。
アイボリーはベッドから軽やかに飛び降り、汚れたパンツを脱いだ。

「・・・なんつーか」
(やっぱちょっと恥ずかしいよな、これ)

微妙に、やましい。おもらしをしてしまった・・・そんな気分だ。

「ヒスイにバレねーうちに、始末しとくか」

抜き足差し足で、一階のランドリールームへ向かうアイボリー。

「・・・・・・」

汚れたパンツをこっそり洗濯機に放り込んでしまおうかとも思ったが、裏庭の水道で手洗いすることにした。
するとそこには・・・

「まー!?」
「あーくん!?」

アイボリーと同じように、マーキュリーも手にパンツを持っている。
洗濯板でそれをゴシゴシやっていたところだ。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

わざわざ尋ねなくても、わかる。
同じ日に生まれた双子は、同じ日に精通したのだ。

「・・・替えのパンツぐらい穿いたら?」

と。下半身丸出しのアイボリーに意見するマーキュリー。
自身は新しいものに穿き替えている。ちなみに、2人ともボクサーパンツだ。

「風通し良くしたい派なの!俺は」

そう言い返すアイボリーだったが。

「もうそういう歳じゃないし。家には女性もいるんだから・・・少しは配慮した方がいいよ」

と、マーキュリーに言われてしまう。

「女性?ヒスイのこと?」
「うん、まあ一応・・・」

そこで2人、一旦黙る。

「・・・まーはさ、どんな夢みたの?」
「あーくんこそ」
「へへっ・・・なんつーか・・・」
「・・・うん、僕もだよ」

互いに打ち明け難い夢。
アイボリーもマーキュリーも夢の内容は口にせず、曖昧に笑い合う。
と、その時。

「コハク!?」「お父さん!?」

裏口から出てきたコハクとバッタリ遭遇してしまった。

「おはよう。早いね」

息子に挨拶をしたところで・・・

「ん?」

パンツの存在に気付くコハク。

「もしかして・・・出た?」

と、事実確認すると。
証拠隠滅に至らなかった双子は同時に頷いた。

「そう、おめでとう」

コハクは笑顔で祝辞を述べ、アイボリーの頭に手を置いた。
マーキュリーに比べると身長がかなり低いので、つい、だ。

「なー、コハク」

と、アイボリー。

「これで俺も“えっち”できるようになったんだよな?」
「うん、そうだよ」
「じゃあさ!」

「ヒスイとえっちする時、俺も混ぜてくれよ!!」

アイボリーのお馬鹿発言が炸裂し、次の瞬間、コハクの背負い投げが決まる。

「は〜い。NGワードね」

ヒスイとえっちしていいのは僕だけ。と、お仕置きスマイルで言い聞かせるコハク。だが・・・

「なんで?」

芝生の上で仰向けになったアイボリーが真顔で聞き返す。

「なんでコハクだけなの?」
「あーくん!やめなよ!」

慌ててマーキュリーが間に入った。
ちょうどそこで。

「おにぃちゃぁん」

と、眠そうなヒスイの声。二階の窓からナイトウェア姿を見せた。

「あーくん?まーくん?おにいちゃんと何してるの???」

目を擦りながら、不思議そうな顔をするヒスイ。

「朝の体操を、ちょっとね」

と、コハクが誤魔化す。
アイボリーもマーキュリーもヒスイには知られたくないため、コハクの言葉に乗じてわざとらしい体操を始めた。

「おいっちにぃ!さんしぃ!朝の体操はいいな!まー!!」
「そうだね、あーくん」
「いいよ、2人ともその調子」

と、コハクが笑いを堪える。

「ふぅ〜ん・・・」

朝の体操・・・ヒスイはさほど興味がないようで。大欠伸のあと一言。

「お兄ちゃん、喉渇いた〜・・・」
「はいはい、今用意するからね〜」

マンゴージュースを作るために、家庭菜園へ向かう途中だったのだ。
今は11月だが、ヒスイを喜ばせたい一心で、ハウス栽培している。
ヒスイが部屋に引っ込むと、コハクは双子を振り返り、言った。

「今日の夕飯は、君達の好きなものを作るよ。何がいい?」

お祝いに、だ。無論これは男同士の秘密だが、豪華なディナーを約束する。
コハクは、双子のリクエストを受けてから、再び家庭菜園へと足を向けた。

「15歳・・・か」

ジストは13歳、サルファーは10歳で精通を迎えた。※スピネルは不明。
一族の男子にしては遅い方だが。

(性欲を覚えれば、否応なく異性を意識するようになるだろう)

アイボリーの3P志願には、正直面喰った。

(どういう理屈なのか、聞きそびれちゃったけど)

コハクは苦々しく笑い。

「いよいよ・・・かな」

 

そしてこちら、裏庭の双子。

「お母さんと・・・とかって、変だよ、あーくん」

呆れたようにマーキュリーが言うと。
アイボリーは・・・露骨に拗ねた。口元が見事に尖がっている。

「・・・だってヒスイ、チンコ好きじゃんか」

それを得たヒスイが、とても気持ち良さそうな顔をするのを、アイボリーは知っていて。

「俺もあれやりたかったのぉっ!!」
「・・・・・・」
(あーくん・・・それって・・・)

眩暈を伴う既視感。何年か前にどこかで聞いたようなセリフだ。
体はともかく・・・アイボリーの精神は全然成長していない。

「お菓子とは違うよ」

と、困った顔のマーキュリー。

「くれるなら誰でもいいって訳じゃなくて、お父さんのだから・・・」
「そうなの!?」

そこで驚くアイボリーに、マーキュリーの方が驚く。

「・・・・・・」
(将来が心配だよ・・・)

 

それから3時間後・・・双子は登校していた。
コスモクロアにある中学校だ。通学には魔法陣を使っている。
制服はブレザー。着こなしによって個性が出るものだ。

アイボリーはジャケットの代わりにセーターを着て。ネクタイは緩めだ。
一方、マーキュリーはシャツのボタンをきっちり締め。模範的な着用だ。

体格差は相変わらずだが、美形に生まれ付いた2人は、年中モテ期で。
子供っぽいアイボリーは上級生に人気が高く。
大人っぽいマーキュリーは下級生の人気が高い。

※同級生の人気は半々。

上級生の校舎と下級生の校舎が東と西に分かれているため、アイボリーは東の王子、マーキュリーは西の王子と称されている。
あくまでも・・・学園という小さな世界での話だ。


昼休み。双子は図書室にいた。
どこへ行っても女子の目はあるが、2人でいれば気にならない。
最近、双子が夢中になっているものが、ここにあるのだ。
従って、毎日通い詰めていた。
閲覧机に積み上げられている本は・・・

『悪魔学』

悪戯と呼ぶにはあまりに危険な好奇心。
それが、コスモクロアに大きな災いを招くことになる―


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