10話 誰もいない教室
※性描写カット
午後2時。
コハクと別れ、ヒスイはひとり、賑わう校舎へと戻った。しかし。
「お兄ちゃんもいないし・・・もう帰ろうかな」
拗ねて、口を尖らせること1分。
「・・・あ!そうだ!あーくんとまーくんがいたっけ!」
やっと、息子の存在を思い出す。
「友達の手伝いって言ってたけど・・・」
学園内にいるのは確かだが、詳しいことは何も聞いていない。
あてもなく、ヒスイが廊下をキョロキョロしていると。
どこからか伸びてきた腕に捕獲された。
「え・・・?トパーズっ!?」
その登場よりも、その格好に驚く。
教師であるトパーズは本来スーツであるが、生徒の目を欺くために変装をしていた・・・眼鏡を外し、高等部の制服を着ている。
コハクの予定を調べ上げ、ヒスイがフリーになる時間帯を狙っていたのだ。
「クク・・・丁度いい」
運命的なヒスイのコスプレを、トパーズは大いに気に入った様子だ。
「・・・・・・」
(お兄ちゃんとトパーズって、考えてること一緒なことあるんだよね)
そうなのだ・・・コハクとトパーズは、時折、発想がモロにカブる。※番外編『妄想ロマンス』参照。
とにかくこれで、高校生ごっこ再開となった。
「行くぞ」と、ヒスイの手首を掴むトパーズ。
「行く?どこへ?」
“お化け屋敷”
「!!やだっ!!」
聞いた途端逃げ出そうとするヒスイだったが、トパーズに無理矢理連れ込まれ。
間もなく・・・紐で吊られたコンニャクがヒスイの顔に張り付ついた。
「ひっ!!ぎやぁぁぁぁ!!」
思惑通りの大悲鳴。
「クク・・・」
トパーズは笑いが止まらない。
お化け嫌いのヒスイは、トパーズに抱きつくこと数知れず。うち何回かキスをされたが、構っている余裕はなかった。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
トパーズと握り合った手と手の間がひどく湿っているのは、ヒスイの汗のせいだ。
「あ!」
擬似墓地を抜け、やっと出口らしき扉が見えた。
そこを開ければ、光溢れる世界・・・である筈なのだが。
「ちょ・・・何これっ!?」
教室の外、廊下の窓から見えるコスモクロアの空は、完全なる闇に覆われていた。
学園の生徒や来客者達は一様に不安気な表情で見上げている。
その時―トパーズの携帯が鳴った。
相手はエクソシスト総帥、セレナイトだった。
「少々困ったことになってね」
「・・・何だ?早く言え」
セレナイトの声は落ち付いているが、雑音が凄い。背後の混乱が伝わってくる。
恐らく、良くない知らせだ。トパーズの予感は的中し、セレナイトは言った。
「君の、末弟くん達が召喚したと思われる悪魔が・・・天使を喰っている」