World Joker/Side-B

12話 ハニートラップ




こちら、事件現場。

 

双子は同時に意識を取り戻した。

「!!」「!!」

旧校舎がそっくりそのままリヴァイアサンの頭部と入れ替わっている。

避難が完了したため、天使が喰われることはなくなったが、リヴァイアサンの口は開いたまま、上空に向かって火炎放射を続けていた。

「・・・・・・」「・・・・・・」

自分達が引き起こした惨劇を目にして、アイボリーもマーキュリーも驚きを通り越してしまっている感じだ。

「気がついたかね?」

いつもと変わらぬ穏やかな態度で双子に声をかけるセレ。

「コハク・・・は?」

恐る恐る尋ねるアイボリー。

焼けた草の上に脱ぎ捨てられたブレザーが、父親のものだとすぐにわかった。

「コハク、シトリン、サルファーはリヴァイアサンの口から地獄に向かったよ」

事態を収拾させるために。セレはそう説明した。

「そんな・・・」

呟いたのはマーキュリーだ。

“こんな筈じゃなかった”

言葉にこそしないものの、後悔の念が表情に現れていた。

「不幸中の幸いは・・・」と、セレが語る。

 

ここが離島で。

ここに・・・神がいることだ。

 

 

 

その頃、トパーズは・・・ヒスイを図書室に連れ込んでいた。

文化祭の間は封鎖となっているが、学園の権力者たるトパーズなら入室も自由自在だ。

「セレに呼ばれてたんじゃないの?」

「これ以上被害が拡大することはない。後はあっちで勝手にやればいい」

あくまで自分のペースを貫く。
セレの招集に応じるつもりはないらしい。

「でも・・・」

窓の外を見る限りでは、只事ではない。

(お兄ちゃんと連絡取りたいけど・・・)

使用頻度の低いヒスイの携帯は家に置きっ放しだ。
多分、電池も切れている。

(トパーズは貸してくれないし・・・)

さっきから何度も頼んでいるが、駄目なのだ。

(こうなったら・・・)

ある考えを胸に、ヒスイは大人しくトパーズに組み敷かれた。

 

本棚と本棚の間、幅の狭い床の上で。

 

ちゅ。前髪の隙間から、額にキスが落とされる。

「んっ・・・」

首筋から顎にかけて舐め上げられたあと、閉じたばかりの胸元が再び開かれた。

「っ・・・!!」

冷気より、熱気を感じる。
トパーズの唇が素肌に接近している証拠だ。

ちゅっ。ソフトなキスで予告して。

ちゅうぅぅっ。ハードに吸い付く。

「あ・・・」

 

 

これは、跡が残るキス。

 

 

(だけど今なら・・・トパーズにも隙が・・・)

キスマークづくりに勤しむトパーズの背中に両腕を回すヒスイ。

(確かお尻のポケットに・・・)

記憶を辿りながら、胴体をまさぐり、背筋に沿って小さな手のひらを滑らせる。

両脚を絡め・・・何気にとんでもない体勢になっている。

「クク・・・随分積極的だな。その気になったか?」と。

ヒスイの髪を撫で、耳朶を甘噛みするトパーズだったが・・・

「・・・・・・」

動きが、おかしい。やたらとお尻を触ろうとしてくるのだ。

(携帯が狙いか)

ヒスイ、決死のハニートラップ。

(まあいい。引っ掛かってやっても。だが・・・)

「もう少し楽しませろ」

※性描写カット

「んっ、んー!!!」

それでもヒスイは、諦めずに携帯へと手を伸ばし続けた。

(もう・・・ちょっとで届くのに・・・)

「あ・・・取れたっ!!」

 

 

 

一方、外では。

 

びっしり暗雲が立ち込める空。

その一点から地上へと光が差し込む・・・神の子ジストの降臨だ。

「ごめんっ!遅くなって!!・・・へ?なに?悪魔?」

どこかで見たような気がするが、思い出せない。

空中で「う〜ん」、首を傾げているうちに、人影を発見した。

「あっ!セレのおっちゃん!」

「良いところにきたね、ジスト」

身振り手振りで、ジストにサインを送るセレ。

あたかも、野球のバッテリーを見ているようだ。

「んっ?口塞げばいいの?」

わかったっ!ジストは大きく頷き。

「グングニル!!!」

愛用の神槍を喚び出した。

それから、狙いを定め、投射。

グングニルは、リヴァイアサンの鼻先から顎にかけて貫通し、見事その口を塞いだ。

神の力はやはり偉大なのだ。

炎と煙の排出が止まり、リヴァイアサンが地の底へ沈んでゆく・・・

空が晴れ渡る・・・感動的な光景だ。

「ジスト、カッケェ!!」

結界の中から拍手を送るのは、アイボリー。だが。

「あーくん・・・ちゃんと反省してる?」

隣のマーキュリーに睨まれる。

「し、してるって」

 

 

「あーくん!まーくん!」

 

 

そこにヒスイが走ってきた。

「げほげほ・・・何、この・・・」

残った煙を思いっきり吸い込んで、咽る。

「げほっ・・・ふたりとも大丈夫?」

「ヒスイ!!」

結界から解放された双子は、ヒスイに身を寄せ。

それからすぐ。

 

 

「お母さん・・・ごめんなさい」

 

 

「え?」(なんで?なんでまーくんが私に謝るの!?)

沈痛な面持ちで深く頭を下げたマーキュリーに、後ずさりするヒスイ。

躾けもコハク任せのため、こういう時パニックになってしまう。

(怒った方がいいのかな???それとも・・・)

「ちょ・・・ちょっと待ってね」

携帯を手に入れた直後、コハクに電話をかけてみたが、繋がらなかった。

次にかける相手といえば・・・オニキスだ。

「もしもし、オニキス?」

「ヒスイか?コスモクロアで何があった?」

モルダバイトでも、只ならぬ気配を感じたという。

「私もよくわからないんだけど・・・過失召喚だって。うん、もう平気。でもね、なんか、まーくんが“ごめんなさい”って・・・」

どう答えればいいかわからない、ヒスイが相談すると。
オニキスは言った。

「・・・親と子だ。これから共に罪を背負うことになる。マーキュリーはそれがわかっているのだろう」

たからこその、謝罪。反省の姿勢が窺える。

「あ、そっか!わかったっ!」ヒスイも納得だ。

じゃ、またね!と、明るい声で電話を切り、マーキュリーに向き直る。

ヒスイなりに、励ましの言葉をかけようとしたのだ・・・が。

「・・・あれ?まーくん」

マーキュリーとアイボリーは、セレと話し中だった。

「私の部下を含め、数十名の天使が巻き込まれた」

学園の1/4はリヴァイアサンの炎に焼かれ。
文化祭の続行は不可能。

次々とセレが罪状を述べる。

「君達は罪人となった。どうするかね?」

「どうすればいいですか」

気丈に聞き返したのは、マーキュリーだ。

「ちょっと待てよ!あれは・・・」

「あーくんは黙ってて」

アイボリーの言い分は無視して。

「僕達にできることなら、何でもやります」

決意を告げる。するとセレは笑みを浮かべ。

「悪魔学に興味があるのなら、私の元へくるといい。もう二度と、このような過ちを犯さぬように・・・」

 

 

「エクソシストにならないかね?」

 

 

一口にそう言っても、簡単になれるものではない。

それなりの知識と戦闘力。
そして何より、試験に合格しなくては認められないのだ。

そこでセレは話し相手を変更、ヒスイに向かって言った。

「ヒスイ」

「うん?」

「1週間、君の子供達を私に預けて貰いたいのだがね、どうだろう?」

 
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