World Joker/Side-B

13話 絶対命令



「1週間?うん、いいよ」と、あっさり承諾するヒスイ。

セレは悪魔学の権威だ。双子もまんざらではない様子だった、が。

 

 

「そうはさせるか」

 

 

長男トパーズが割り込み、アイボリーの身柄を拘束する。

金の髪を保つため、魔法薬を食事に混ぜる必要があるからだ。

マーキュリーはともかく、アイボリーをセレに渡す訳にはいかない。

(面倒なモノ残しやがって)

心の中でコハクに悪態をつきながら、トパーズは弟の襟首を掴み、引き摺った。

「来い。1週間、オレの下僕にしてやる」

「トパーズっ!!離せよ・・・っ!!俺はまーと一緒・・・」

「黙れ。お前に選択の余地はない。これは・・・」

 

 

絶対命令だ。

 

 

「下僕って何だよ!?んなの、横暴だろぉぉぉ!!!!」

腕を振り回し、猛抗議するアイボリー。

「影から応援する兄弟愛とかねーのかよ!!」

「ドブに捨てた」

トパーズは一言で済ませ。見くだし+せせら笑いを発動させた。

カッとなったアイボリーは・・・

「親子愛はムチャクチャあるくせに!!」

そう大きく声を張り上げ。

 

 

「さっきまでヒスイとイチャついてただろっ!!」

 

 

「・・・なんでわかった?」と、トパーズ。

アイボリーを吊るし上げ、問いただす。

「ヒスイに・・・キスマーク・・・あんだろ・・・っ!!」

普通なら、コハクのものだと思うだろう。ところが。

「わかるに決まってんだろ」

アイボリーは変なところで鼻が利く。

「コハクのは自己満足で、トパーズのは自己主張!違いなんて一目瞭然だっつぅの!!」

たまに、本人も意識していないようなことまで暴いてみせるのだ。

「あーくん!やめなよ!!」と、マーキュリー。

歯に衣着せぬ、ストレートな発言。

アイボリーは、これでしょっちゅう場の空気を悪くしている。

その度に、マーキュリーがフォローに回らなければならないため、正直、堪ったものじゃない。

「・・・いい加減にしてよ」

柔和な顔が引き攣り・・・キレる寸前だ。

「あーもまーも、兄ちゃんも落ち着いて!なっ!」

平和主義のジストが慌てて兄弟喧嘩の仲裁に入る。

「あっ!ほらっ!まだ2人とも武器だって決まってないだろっ!」

確かにそうだ。ごく普通の生活を送ってきた双子は、悪戯経験は豊富でも、戦闘経験は皆無である。

準備が必要なのは言うまでもなく。もっともなジストの意見に場が鎮まる。

「じゃあさっ!武器選ぶの、オレ付き合うから!」と、ジスト。

試験に向けての修業はそれから〜ということで話がまとまった。

 

「そう嫌がるものではないよ」

セレはアイボリーの肩に手を置き、宥めるように言った。

「君の兄も師としては悪くないはずだ」

「当たり前だ」

煙草を咥え、トパーズが言い返す。

「あーくんが、人一倍迷惑をかけると思うので、僕は総帥のお世話になります」

師を分かつことをマーキュリーが告げると。トパーズは鼻で笑い、警告した。

「タヌキに化かされるなよ」

 

 

 

一方、母親のヒスイは。

 

兄弟達の揉め事などほったらかして、携帯を耳にあてている。

コハクに電話をかけているのだ。

「あ!おにいちゃ・・・」

繋がったかと思えば、留守電で、ガッカリ。

メッセージを残すのは苦手なので、無言のまま切る。何度もその繰り返しだった。

「なかなか洞察力がある子だね、彼は」

ヒスイの隣に立ち、アイボリーを褒めるセレ。

「私の手で育ててみたかったがね、トパーズが動くということは、何か事情があるようだ」

・・・と言っても、ヒスイの耳には入っていない。コハクのことで頭がいっぱいなのだ。

「ちょっと!セレっ!」

怒った顔でヒスイが迫る。

「さっきからお兄ちゃんと全然連絡取れないんだけど!どこ行ったの?」

仮パートナーとして、コハクを取られること多数、ここへきてついに不満爆発だ。するとセレは。

「今の私には、どうしても彼が必要なものでね」

わざとヒスイを煽るような返答をした。

「!!」(どうしてもお兄ちゃんが必要!?それって・・・)

深刻な形相で、黙るヒスイ。

(やっぱりセレってホモなの!?研究員のコにも、ちょっかいかけてるって噂だし・・・)

「・・・お兄ちゃんは絶対あげないんだから」

誤解を深めていくヒスイを見て、笑うセレ。

「それでは、双子くんの武器が決まるまで、お茶でも飲みながら話をしないかね?」

「望むところよ!!」

 

 

 

 

そして、数時間経過―こちら、地獄の門では。

 

「は〜い、皆さん、川は絶対に渡らないでくださいね〜」

被害者たる天使達をコハクが引率していた。

「地獄っていうから、もっと悪魔がウジャウジャしてるかと思ったのに」

つまらなそうに口を尖らせるのはサルファーだ。

リヴァイアサンの口を抜け、辿り着いたそこは、予想に反してとても静かだった。

何もない空間。目の前を大きな川が流れている。いわゆる、三途の川というやつだ。

川には渡し守がいて。一隻の船が浮いていた。

川を渡った先は辺獄と呼ばれる場所なのだと、コハクが話す。

「もちろん、先に進めば大物がゴロゴロしてるけど」

無益な争いは避けたい=早くヒスイのところに帰りたい。

「川を渡ってしまった天使がいないか確認してくるから、君達はここで待ってて」

サルファーに天使達の警護を依頼し、シトリンには・・・

「あ、そうだ。これ、持っててくれないかな」

途中で川にでも落としたら大変だから、と、シトリンに携帯を預けるコハク。

「じゃあ、行ってくるね」

 

「おお!母上!可愛いぞ」

携帯の待ち受け画像で和むシトリン。

それから、3本のアンテナが立っているのを見て「ここでも使えるのか」と、驚く。

地獄でも通話可能なのは、アンデット商会製のものだけである。

ちょうどその時。1通のメールが届き。

「お?なんだ?」

シトリンは悪びれなく、コハク宛てのメールを開封した。

件名もなければ、本文もない。ただ・・・

「な・・・!!!!!」

添付されていた画像に度肝を抜かれる。

(は・・・母上ぇぇぇ!!!何が起きたというのだ!?)

マタニティドレスを着たヒスイが、ふっくらと張ったお腹を大事そうに抱えている姿が映っていた。

背景の壁掛けカレンダーは、間違いなく今年のもので。昔の写真が送られてきたとは考えにくい。

(どう見ても孕んでいるだろう・・・これは・・・)

美女の、脂汗。妊娠の話など、誰からも聞いていないし、いつもならコハクが真っ先に報告してくる・・・しかし今回はそれがなかった。

「だったら一体、この腹には誰の子が宿っているというのだ?」

容疑者が多すぎて・・・犯人の目星がつかない。

(兄上か!?オニキス殿か!?まさかジストではあるまいな!?マーキュリーが発情したという可能性も・・・)

 

 

「あああ!!!わからん!!!」

 

 

頭を抱え叫んだところで。「お待たせ」と、コハクの声。

早くも辺獄から戻ってきたのだ。

シトリンの苦悩をよそに、コハクは笑顔で言った。

 

「こっち一段落したから、ヒスイに連絡したいんだけど・・・携帯、いいかな?」

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