World Joker/Side-B

21話 デザートハーレム



エクソシスト教会、食堂。

試験は明日ということで、この日は解散となった。

 

「今夜はお兄ちゃんがご馳走つくるって!楽しみだね!」と、ヒスイ。

コハクは晩餐の準備のため、この場にはいない。トパーズも弟子のお披露目会をすっぽかし。

家路に就いたのは、保護者のヒスイと双子の3名だけである。

 

「・・・・・・」「・・・・・・」

ヒスイを間に挟み、双子は言葉を交わさぬまま。

「あれ?まーくん、また背伸びた?」

ヒスイが下から見上げる。

「ほんの少しですよ」

マーキュリーは笑顔で答えたが、すぐにヒスイから視線を逸らした。

「?」(なんだ?今の?まーの奴、感じわり・・・)

アイボリーが横目で睨む・・・が、今は喧嘩をする気力もない。そんなとき。

「あ、そうだ!これ、まーくんにあげる!!」

突然、ヒスイからのプレゼント。右手に持っていた紙袋をマーキュリーに差し出す。

「?ありがとうございます」(クッション???)

受け取ったマーキュリーが首を傾げる一方で。

「!!」(双子なのに、俺にはねーのかよ!!!ヒスイぃぃ!!)

ひとり立ち止まり、悔しさのあまり、両手で髪を掻き毟るアイボリー・・・しかし。

(・・・へっ、一週間前の俺とは違うっての!あとで目にもの見してやるかんな!)

なぜか一発くらった風に、口元を拳で拭い、ニヤリ、不敵に笑う。

「あの・・・お母さん、これは?」

「慣れるまで、結構辛いと思って」

「何が、ですか???」

「お尻が」

「・・・・・・」(お尻?意味がわからない・・・)

思わずクッションを凝視してしまうマーキュリー。

ハートマークとLOVEの文字が入り乱れた柄のチョイスは、ヒスイの勘違いが極まった結果である。

「なぁ、ヒスイ」と、そこでアイボリー。

「うん?何?」と、ヒスイが振り向く。

 

 

「俺のドラゴン、産まれた?」

 

 

「あっ・・・うん・・・」

一瞬だけ、ヒスイの目が泳ぐ。けれども今回は、アイデアによっぽど自信があるのか、両手を腰に胸を張り。

「明日の朝、連れてくるから!きっとびっくりするよ!!」

 

 

 

 

それから7時間後の、赤い屋根の屋敷。

 

夕食時にはトパーズとジストが合流し、家族6名が揃ったが、食後は2組に分かれた。

コハクとマーキュリーは片付けのため、キッチンに残り。

ヒスイ、トパーズ、ジスト、アイボリーは、リビングで寛ぎタイムだ。

暖炉前の絨毯にヒスイが腰を下ろす・・・両隣の、いわば特等席はトパーズとジストが瞬く間に確保していた。

(ちっ・・・トパーズとジストに先越された・・・)

ごく自然に・・・それでいて、この素早さ。さすがに年季が違う。

場所取りに敗れたアイボリーは、暖炉の火を背にして、ヒスイの正面に座った。

 

「どうだ?」

トパーズがデザートと称してヒスイに見せたのは、ゼリービーンズ。

色とりどり、味もとりどり・・・無論、手作りである。

教会に顔を出さなかった理由はつまり、これだ。

「わ・・・おいしそう・・・だね・・・」

ゼリービーンズの詰まった瓶に、ヒスイはたちまち魅了され。その視線は、もはや釘づけだ。

「ホラ、食え」

まずは一粒、指で摘み、ヒスイに与えるトパーズ。

「あ〜ん」

素直にヒスイが口を開ける。幼い頃からコハクに慣らされているため、他者の手から直接食べることに抵抗がないのだ。

「ふぁ・・・」

一口で、幸せいっぱい〜という顔をするヒスイ。

甘さもヒスイ好みに調節されていて、これならいくらでも食べられそうだ。

 

一方、こちらも。

「ふっふっふっ・・・」(トパーズだけだと思うなよ!!)

満を持して。アイボリーが声をあげた。

「ヒスイ、食え!!」

「ふぁっ???」

ヒスイは反射的に、アイボリーの方へ顔を向けた。

アイボリーもまた、瓶詰のスイーツを手にしている。

中味は、メレンゲのクッキー・・・勿論、手作りである。

トパーズの下で、料理のスキルを身につけたので、これくらいなら簡単に作れる。

夕食前に自宅のオーブンで焼いたのだ。

確かに、1週間前のアイボリーとは一味違う。

碁石ほどの大きさのクッキーを、ヒスイの口に放り込む・・・と、ぱくり。

「!!食った!!よっしゃぁ!!!」

長年の夢がひとつ叶い、感激するアイボリー。疲労など吹き飛んでしまった。

「ほぃひぃ〜・・・」

うっとりと、ヒスイがコメントを述べる。

見た目こそシンプルだが、さっくり溶けて、癖になる食感なのだ。

 

トパーズのゼリービーンズと、アイボリーのメレンゲクッキー。

 

ヒスイは、あっちを向いたりこっちを向いたり。

大忙しだが、どちらも気に入ったらしく、余念がない。

口を開けて待つ、その姿はまるで・・・

 

親鳥から餌を貰う雛。

 

・・・だ。

(オレも何か持ってくれば良かったな〜・・・)

出遅れたジストが膝を抱えて、チラリ。餌付けの様子を盗み見る。

(ヒスイ・・・やっぱかわいい・・・)

はぁ。悩ましげな溜息の後・・・

 

 

(ほっぺに、ちゅーしたい)

「ほっぺに、ちゅーしたい」

 

 

「ぶはっ!!ジスト、心の声、漏れてんぜ!!」と、大笑いするアイボリー。

「・・・へっ?オレ、言っちゃった?」

ジストは顔を赤くして。弁解すべく口をパクパク・・・しかし、フォローの言葉が出てこない。

「・・・・・・」

もぐもぐ、お菓子を食べながら考えるヒスイ。

(ん〜と、こういう時は母親らしく、ビシッ!とケジメをつけるべきよね・・・)

と、いうことで。「だめ」と、一言。

するとアイボリーが。

「ジストかわいそー・・・」と、兄の肩を持った。

当のジストは、焦りに焦って。

「いいって!変なこと言ってごめんなっ!ヒスイ」

 

 

「・・・・・・」←待機中の、マーキュリー。

コハクが淹れた紅茶をトレーに乗せ、運んできたのだが・・・この光景に唖然としていた。

(お母さんの餌付けが、そんなに楽しい?)

盛り上がっている兄弟達の輪の中に、入れない。

(入れないんじゃない。入らないんだよ)

「・・・それにしても、あーくん、1週間何してたんだろう・・・」

 

 

 

そうこうしている間に、ヒスイはメレンゲクッキーを完食し。

ゼリービーンズも、残すところあと僅かとなった。

「最後の一粒だ。心して食え」

「ん!!」

食べさせてやると見せかけて・・・ひょいと取り上げるトパーズ。

追ってヒスイが背筋を伸ばし、ぱくっ!トパーズの指に食いつき、ゼリービーンズごと舐めた。

 

「クク・・・存分に味わえ。オレの指をな」と、トパーズ。

 

そう言われ、気付いた時には遅かった。

「!?んむっ・・・」

しっかりと顎を掴まれ。ヒスイの口の中でトパーズの指が動き出す。

最後の最後で嵌められたのだ。

「ん・・・んぅぅ!!!」

くちゅくちゅ・・・舌を擦られ、この場に似つかわしくない音が、ヒスイの口から漏れ出した。

「すげ・・・これが大人の餌付けってヤツかよ」

口内愛撫の様子をアイボリーは傍観。ジストは慌てて止めに入った。

「兄ちゃん!だめだって・・・」

 

 

「はい、はい、そこまでね〜」

 

 

手を叩き、コハクがその場を収める。

「あーくん、明日試験でしょ?早く寝た方がいいんじゃないかな?」

アイボリーを笑顔で追い払い、速やかにヒスイを回収する。

「・・・・・・」「・・・・・・」

そこで、睨み合う、コハクとトパーズ。無言のまま火花を散らす、が。

ジストの抑止力により、今回は、表立った喧嘩にはならなかった。

 

 

 

「わ・・・おにい・・・」

ヒスイを軽々と抱き上げ、階段を上る・・・廊下・・・夫婦の部屋・・・そして、ベッド。

コハクは、洗いたてのシーツの上に、そっとヒスイを寝かせた。

「おにいちゃ?あのね、明日・・・」

えっちの前に、話しておきたいことがあったのだが。


※性描写カット

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