World Joker/Side-B

27話 "S”属性



もとはといえば、ヒスイの案だ。
コハクとて、NOとは言えない。

オニキスから図鑑を引き継ぎ・・・

(・・・こうなる訳ね)

黄金のドラゴンとして、息子アイボリーの前に立つ。

オニキスの時とはまた違う、流麗な姿だった。
高さはあるが、割合細身だ。

「!!お・・・」(お父さん!?)

思わず口から出かかった言葉を飲み込むマーキュリー。

アイボリーはそんなマーキュリーの肩を叩き、得意気に言った。

 

 

「わかってるって!“進化”だろ?」

 

 

片目を瞑り、ビシッ!親指を立てる。

デカドラから、キンドラ。どうやらご満悦のようだ。

(良かった・・・)マーキュリー、心の声。

コハクがいれば、ヒスイの相手をせずに済む。

これでやっと戦いに集中できる・・・と、思いきや。

(何だろう・・・アレは・・・)

体格的に、チビドラのような斜めがけこそできないが、キンドラが首から下げている、タンポポ柄のショルダーバッグ・・・横の隙間から、小人化したヒスイが顔を出している。

「・・・・・・」(見なかったことにしよう)

マーキュリーはさっと視線を逸らした。

お騒がせ変身魔法の次は、縮小魔法・・・確かに、姿を隠すという点では賢明な判断である。しかし。

「まーくん!!」

ヒスイが身を乗り出し、わざわざ存在をアピールしてきた。

秘密を分かち合った息子との再会を喜んでいるのだ。

「・・・・・・」

マーキュリーは素早くキンドラの隣まで移動し、ひとまず笑顔。

それから口パクで。

 

大・人・し・く・し・て・て・く・だ・さ・い。

 

「まーく・・・むぐ・・・っ!!」

指一本でヒスイをバッグに押し込んだ。

「大丈夫だよ、僕がしっかりみてるから」と、コハクが耳打ちする。

ドラゴンの表情は計り知れないが、その声は笑いを含んでいた。

ホッとしたマーキュリーが頷く・・・ところが。

バッグから指を抜くと、そこにはヒスイがぶら下がっていて。

「・・・・・・」

コハクがいなかったら、ハンカチで風呂敷包みにしていたと思う。

「まーくん!あのね!ラブリスに・・・わっ・・・」

マーキュリーに何かを言いかけたところで。指から滑り落ちるヒスイ。

「「!!あぶな・・・」」

ヒスイを救おうと、同時に動いたコハクとマーキュリーが激突する。

なにせ必死だったので、眩暈がする衝撃・・・互いによろめく。

「だ・・・いじょうぶ?」

「・・・はい」

ヒスイは辛うじてマーキュリーの手のひらにのっていた。

マーキュリーは慌ててヒスイをバッグに戻し、きつく蓋を閉めた。

「ちょっ・・・まーくん!?大事な話なんだってばぁぁぁぁ!!!」

 

「まー?さっきから何やってんの?」

双子の兄の、らしくないほど挙動不審な様子に、アイボリーは目をぱちくり。それから。

「なー、俺、ヒスイの声聞こえんだけど、コレ幻聴?」

「うん、幻聴」

「でもさー」

納得できないアイボリーが、話を繋げようとすると・・・

ピシャリ!マーキュリーが鞭の音で黙らせる。

「早く済ませよう」

「・・・・・・」

(まーって、やっぱ“S”属性だったんだな・・・薄々そんな気はしてたけど・・・)

 

 

 

最下層のホールで、双子はついに対決の刻を迎えた。

「デカマッチョ!」

ミノタウロスを指差し、アイボリーが笑う。

数倍・・・それ以上の大きさだが、恐怖はないらしい。

ミノタウロスは、話に聞いていた通りの姿だった。

凶暴な獣の頭部。首から下は筋肉隆々である。言葉などは当然なく。

薄暗い空間に荒々しく吐き出される鼻息が、霧のように立ち込めていた。

武器は、巨大ハンマーだ。

高々と振り上げ、どちらから潰すか吟味している・・・そんな感じで。

 

ミノタウロスの咆哮が合図となり、最終決戦が開始された。

 

「今度こそ俺に任せとけ」と、アイボリー。

先程は、闇牛封じに失敗し、醜態を晒してしまった。※デカドラがフォロー。

汚名返上とばかりに、張り切って出撃だ。

身の丈ほどもあるランスを構え、アイボリーは呪文の詠唱に入った。

「汝に戦いの自由を与える―」

 

 

「ナビゲーションシステム、発動!!」

 

 

トパーズの一夜漬けの正体はこれだ。

ランスが白い炎に包まれ、神器に近い力が宿る。

「とりゃあぁぁっ!!!」

驚異的なジャンプ力で懐に潜り込み、攻撃の隙さえ与えない、完璧なフォームで蜂の巣にして。
あっという間にミノタウロスを沈めてしまった。

天晴れとしか言いようがないが・・・アイボリーの実力ではない。

武器が勝手に戦っているのだ。

要するに、ランスから手を離さなければ、達人の戦いへと導いてくれる訳だ。

アイボリーが鍛えたのは、何が何でも手放さない気力と、握力脚力だけである。

「へへん!どんなもんよ!」

鼻の下を擦るアイボリー。

そこに・・・ハンマーの襲撃。ミノタウロスの復活だ。

先の戦いでアイボリーが与えたダメージはすべて回復していた。

「な・・・」

「あーくん!!」

アイボリーより早くランスが反応し、重く圧し掛かるハンマーを止めた。が。

ピシッ・・・ピシピシピシッ・・・不吉な音と共に、ランスに亀裂が入る。

そして、パーン!!

「3分で壊れたぁぁぁ!!!!」

華麗なる活躍も束の間、ランスは呆気なく粉々になった。

自ら後ろに跳んで、身は守ったが・・・いきなり丸腰で茫然だ。

「・・・あーくんて、ギャグ担当なの?」と、マーキュリー。

「トパーズに騙されたんだよ!!!」と、アイボリーが地団駄を踏む。

「神器っぽく改造してやるって・・・壊れるなんて聞いてねーし!!」

俺の全財産返せー!!!と、叫ぶが。

今は戦いの真っ最中。お喋りしている暇はない。

「あーくん、邪魔だから、もう下がってて」

「・・・・・・」(まーまで・・・サクッとヒデェ・・・)

 

 

 

マーキュリーvsミノタウロスの勝負が始まった。

 

マーキュリーが手にしているのもまた、ただの鞭ではない。

伸縮自在、軟化硬化、あらゆる特性を備えているうえ、魔法との併用で多彩な技を見せていた。だが。

鞭を巻き付け、感電させて丸焦げにしても、ミノタウロスの動きは止まらず。

これまでの状況からも、アンデットであると判断したマーキュリーは、様々な浄化方法を試みたが・・・全く効果がなかった。

(とにかくこっちに引き付けないと・・・)

ミノタウロスの振り回すハンマーが、床や壁、至る所を破壊していた。

天井を支える柱も何本か折れている。
このままではいつか建物が崩壊し、ここにいる全員に危険が及ぶ。

(どうすれば・・・)

焦りと迷いが、マーキュリーの動きを鈍らせる。

 

一方、戦力外通知を受けたアイボリーは。

「キンドラぁー・・・」

慰めて貰おうと、相棒のドラゴンのもとへ。けれども。

(息子は甘やかさない主義なんだ)

キンドラ=コハクは心の声で告げ。

(でもまあ、これは、僕からのヒントかな)

アイボリーを両腕で持ち上げ、ホール奥へと投げ飛ばす。

「うわぁぁぁ!!!なんでこーなるんだよぉぉぉ!!!」

不遇の連続に嘆きながら、着地したのは祭壇の上。

「あーくん!!?」

そこへマーキュリーが目を向ける。と―

祭壇に面した壁に大きな斧が祀られていることに気付く。

「!!」(斧・・・これだ!!)

肉体に、必ずしも命が宿っているとは限らない。

例えば、目の前にいるミノタウロスは傀儡で。

修復や行動を司る何かが、別の場所に隠されていてもおかしくはない。

“ラブリス”ヒスイが口走っていたことと、ひとつの考えが結び付く。

ラブリスとは、両刃の斧の意だ。
あれに何か仕掛けがあるとすれば。

「あーくん!!そこにある斧を壊して!!」

「斧?これ?うぉっしゃ!!やってやるぜ!!」

 

 

 

その頃・・・

 

オニキスは通路を引き返し、例の事件現場へ向かっていた。

(出過ぎた真似をしているのかもしれんが・・・)

アイボリーが再び“ブラッド・ダイナマイト”を使う可能性は充分ある。

(必殺技として通用するものなのかどうか、成分分析はしておくべきだろう)

幸い、吸血鬼の得意分野だ。

(だが・・・)

コハクの態度が、さっきからどうも引っ掛かっていた。

話を切り出そうとした、あの時。
わざとヒスイを起こしたような気がしてならないのだ。

(オレが、ヒスイの前で口を噤むことを読んでいたとしたら・・・)

「・・・考えすぎか」

何かにつけてコハクを疑うのも、如何なものか。

「自重せねばな」
と、苦笑いで足を速める。しかし。

辿り着いた先で、オニキスは思いも寄らない事態に遭遇した。

「馬鹿な・・・」

 

 

「血痕がない・・・だと」

 
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