29話 絶頂プロデュース
「ずいぶんと早いお帰りだね」
トパーズが屋敷の門を抜けると、そこにはコハクが立っていた。
トパーズより少し遅れての帰宅だったので、偶然といえば偶然なのだが。
「ヒスイには会っていかないの?」
コハクは、美しくも白々しい笑顔でトパーズを引き止めた。
眠り姫を目覚めさせた王子が、姿を見せなかった理由―。
直接目にすれば、誰にだってわかる。
本来、色白であるトパーズの肌が・・・褐色に日焼けしていたのだ。
「・・・・・・」
たかが日焼け、されど日焼け。
学校でも教会でも大騒ぎとなった。
ヒスイには絶対に見せたくない姿だ。
「いやぁ・・・あの島は本当に暑かったよね」
と、コハク。
材料調達の際に訪れた場所についてそう語る。
「だから日焼け止め塗った方がいいって言ったのに」
「うるさい。誰のせいだと思ってる」
トパーズの不機嫌な物言いに。
「ここまできたら、もう後には引けないでしょ」
コハクは苦笑いで答えた。
「・・・いつかはバレる」
「だろうね。その時はその時だよ。それにしても―」
「思った以上に弱かったね、紫外線に」
「・・・・・・」
「吸血鬼だったら、本当に塵になっていたところだけど、まぁ君も神の端くれだし?2、3日で元に・・・ん?」
皮肉交じりにコハクが言った、その時。
トパーズがコハクの足を踏み。
「・・・・・・」
コハクがトパーズの足を踏み返す。
ぐりぐりと、互いに潰し合い。
しばらく我慢比べをして。
「・・・まあいい、元は取らせてもらう」
と、トパーズが退く。
コハクは前髪を掻き上げ、余裕の笑みで。
「どうぞご自由に」
こうして、トパーズと別れた後、コハクは裏庭へと向かった。
「そろそろ届く頃なんだけど・・・あ、あれかな」
空を仰ぐ、と。雲の切れ間から、桐の小箱が落ちてきた。
やたらと格式高そうな梱包である。
トパーズを日焼け男子に変えてしまった秘密の出張。
コハクにとっては、収穫の多いものとなっていた。
行き着いた先で、風変りな店を見つけ、そこで特注した品が、たった今、届いたのである。
「これは夜のお楽しみ」
桐の小箱を手に、コハクは裏口の扉を開けた。
「ただいま」
同日、夜。
※性描写カット