43話 ボーイズトーク
「おかしいなー・・・」と、ジスト。
隣には、マーキュリーもいる。
互いに、帰宅途中で偶然出会った。
以降、兄弟で行動を共にしているのだが、屋敷にコハクは戻らず、3階建ての家を覗いてみても、無人の状態・・・
「父ちゃんも兄ちゃんも携帯繋がんないし」
「・・・そうですね」
マーキュリーが相槌を打つ。
そして、2人は今、国境の家へと向かっていた。
「まーもさ、ヒスイのこと、好き・・・なんだよ・・・な?」
丁度良い機会と思ってか、ジストが尋ねる。すると。
「どうしてそうなるんですか?違いますよ」
マーキュリーは真っ向から否定。
(あれっ???でも甘い匂いって・・・)
ジストを困惑させる。
「じゃっ・・・じゃあさっ!例えばの話だけどっ!ヒスイのこと好きになんの・・・嫌?」
「例えばの話、でも嫌ですよ。始めから叶わないとわかっている恋なんて、しない方がいいに決まってる。ジスト兄さんはいいんですか?今のままで」
「うん、オレは今のままがいい」
「辛く・・・ないんですか?」弟の質問に。
「そうでもないよ」ジストが答える。
「昔は、ヒスイのこと好きになんの、嫌っていうより、怖かったけど・・・」
そう打ち明けてから、片想いの極意を伝えた。
「自分より、好きになればいいんだ」
「自分より好きで、自分より大切。兄ちゃんも、オニキスのおっちゃんも、きっとそうなんだ。だからそんなに辛くない」
ヒスイが幸せなら、それでいいのだと語る。
「・・・・・・」
「もし何かあったらさ、オレんとこ来て」と、ジスト。
「何かあったら?」
マーキュリーが僅かに表情を歪め、聞き返す。
「何もなかったら、それに越したことないんだけどさっ!オレ達兄弟だしっ!」
ジストは慌ててそう言った後、小声でこう付け足した。
ひとりで苦しむこと、ないんだ。
「何もしてねーのに、結界解けたぜ・・・おい・・・」
誰に話しかけるでもなく、呟く。
国境の家、前。なんとアイボリーはすぐそこにいた。
ジストの私服を勝手に拝借。少々ダボつくが、格段に暖かい。
つむじを隠すため、つば付き帽子をしっかり被り、更にその上からフード。
こうして装備を整えたうえで、ヒスイ救出に赴いた訳だが、より強化されたオニキスの結界に侵入を阻まれていたのだ。
抜け出すのは得意でも、入り込むとなると話は別なのである。
「おっしゃ!とにかくこれでヒスイを連れ戻せる!!」
理由はどうあれ。
「ヒスイがいねーと、コハクがロクなことになんねぇからな」
さすがによく理解している。
ファイティングポーズを決め、アイボリーが玄関扉を睨んだ途端。
「あーくん!?」
ヒスイが飛び出してきた。拍子抜けもいいところだ。
「ヒスイ!?て、何やってんだよ・・・」
出会いがしら、両手でアイボリーの毛先を掴み。あのね、と、見上げるヒスイ。
「あーくんのソレ、白髪じゃなくて銀髪なの」
魔法薬で、髪の色を変えていた旨を説明する。
「あっ、そ。了解」
「え?それだけ??」
「白髪より、全然いいじゃんか。むしろホッとしてんだけど、俺」
「ぷっ・・・それもそうだね」
勘違いに、2人揃って笑ってしまう。
(でも・・・)
15年間、本来の姿を偽らせた罪に変わりはない。
「ごめ・・・!?」
ヒスイが口にしかけた謝罪の言葉。遮るようにアイボリーがキスをする。
「!!?」
ヒスイは驚きで唇が動かず。
息を止めて、アイボリーのキスが済むのを待つことしかできなかった。
「・・・俺、人に謝んの嫌いだけど、人に謝られんのも、嫌い」
「あ・・・」
「キスされたくなきゃ、もう二度と言うんじゃねぇぞ?」
「うん・・・」
「コハクと喧嘩、すんなよ?あれこれ話する前にえっちだ!えっち!わかったか?」
「う、うん」
ほら、いけ!と。ヒスイのお尻を叩くアイボリー。
「わっ・・・!あーくんの、えっちっ!!」
ヒスイは制服のスカートを押さえ、あかんべをして走っていった。
「・・・・・・」(やべ・・・今のキュンときた)
だらしなく、鼻の下が伸びている。
唇にはヒスイの唇の感触がまだ残っていて。
キスの余韻に浸りながら、振り返った矢先・・・
「うぉぁっ!!!まー!?ジスト!?今の見て・・・」
と、そこで。
マーキュリーに奪われる、唇。
「な・・・にすんだよぉぉぉ!!!」
「お仕置き。お母さんにキスするとか、ありえないから」
「知るかよ!!ヒスイとのキスが台無しだぁぁぁ!!!」
(そのためにやったんだ)←マーキュリー、ブラックな心の声。
「男同士とか、キモイだろ!!そっちの方がありえねーよ!!」
アイボリーが怒って牙を剥く、が。
「どうだっていいんだよ、そんなことは。双子なんだから」と、吐き捨てるマーキュリー。
それから、ハンカチでごしごし口を拭き。にっこり、笑顔。
「お見苦しいところを、すみません。ジスト兄さん」
「へっ?あっ・・・いやっ・・・」
兄弟キス現場に居合わせたジストもパニックだ。
(なんかよくわかんないけど・・・っ!!まー、怖いよ!!)
心の声で、トパーズに助けを求める。
(兄ちゃんっ!!オレ、どうすればいいの!?)