45話 エロキス
「おにぃ・・・ちゃ・・・?」
一方で、ヒスイの声がした。珍しく、目を覚ましている。
アイボリーは慌ててソファーの裏に隠れた。
ヒスイはどうやら甘え足りないらしく。
エッチな気分を持続させたまま、ぽーっとした表情で、コハクを見上げている。
コハク=快感をくれるひと
そう認識するよう、仕込んであるのだ。
「も・・・おわり?」と、訊かれたら。
「まだ終わりじゃないよ」と、答える責任がある。
“ちょっと待ってて”
口だけ動かし、アイボリーに告げると。OKのサインが返ってきた。
※性描写カット
ヒスイを夫婦の部屋へと運び、階段を下りてきたコハクと、トイレから出てきたアイボリーが、廊下で合流する。
先程の提案に従い、深夜のキャッチボール。
家からは少し離れた、敷地内の原っぱで、月明かりを頼りに、ボールを投げたり、受けたりして。
「父と息子の語らいって言ったら、キャッチボールじゃんか?」
※アイボリーの個人的イメージです。
(そうなの?)疑問に思わないこともないが。
例の件について、話し合いの機会を作ってくれたのは、正直有難い。
「ヒスイの前では、カッコつけちゃったけど、実は結構、びっくりしてる」と、早速打ち明けるアイボリー。
「だろうね」コハクは苦笑いだ。
「まーと同じってことだろ?俺も、その・・・体質的に?」
「うん」
「そか」
アイボリーは、大きく一度頷いてから。
「髪の色変える薬っての、またくれよ」
こうなってしまった以上、どこまで効果があるかわからないが。
「俺、コハクと同じ金髪、気に入ってんだ!一生、これでいくつもり!」
アイボリーは、迷いのない口調で、金髪を継続すると宣言した。
「あーくん・・・」
ありがとう、を言う前に。まず一言。
「ごめんね」
「あー・・・」
ぼりぼり、頬を掻くアイボリー。
(謝られんの、嫌いだけど・・・ヒスイん時みたいにはいかねぇし)
キスでコハクの唇を塞ぐのは、無理だ。
(男とのキスは、もうこりごりだっての!)
という訳で。
「俺はまぁ、いいよ」軽く流すアイボリー。
会話のペースに合わせ、ゆっくりとボールをやり取りしながら。
「なんとなく思うんだけど」と、話を続ける。
「俺とまー、逆だったらさ。うまくいってたかもしんねぇな」
「・・・そればかりはね。仕方のないことだよ」
コハクは肩を竦め。
(まーくんともちゃんと話をしないとなぁ・・・)
しかし今夜は外泊の連絡を受けている。
「・・・・・・」
しばらくの間、2人は黙ってボールを投げ合っていた。
・・・が。不意にアイボリーがこう口にした。
「心配しなくても、俺はコハクからヒスイを奪おうなんて考えてねぇし」
「あーくん・・・」(もしかして、察してくれたのかな)
そんな感動も束の間。
「あー、でも俺、ヒスイにキスしちゃった」で、場の空気が凍り付く。
「・・・へぇ、どこに?」
一応、確認するコハクだったが。すでに投球ポーズ。
「もちろん、くちび・・・ぶぉはぁっ!!!」
次の瞬間、繰り出された豪速球で、アイボリーの体が吹き飛んだ。
「ははは!ごめん、ごめん、ちょっと力が入っちゃって。大丈夫?」
「げほっ・・・大丈夫じゃ・・・ねぇよ・・・」
衝撃に咽るアイボリー。ど真ん中、ストライク。グローブが焼け焦げている。
「だめだよねぇ?ヒスイにそういうことしちゃ」
お仕置きスマイルで前進してくるコハクに。
「な、なんだよっ!コハクの方がずっとエロいキスしてんじゃんか!俺だってちょっとぐらいいいだろ!」
アイボリーが訴えるも。
「だめ」コハクは即答。
「大人気ねぇっ!!」続く抗議に。
「大人気ない?うん、そうかもしれないね」コハクが開き直る。
(僕は、生まれた時からこの姿だから、はっきりとは言えないけど)
「たぶん・・・」
大人は、子供が思うほど大人ではなく。
子供は、大人が思うほど子供ではない。
「・・・やっぱりまーくんと話してくるよ」と、コハク。
“実験”の被害者は、アイボリーだけではないのだ。
マーキュリーはマーキュリーで、考えがあるはずだ。
キャッチボールはここで終了。
グローブをアイボリーに手渡し、コハクは羽根を広げた。
「ヒスイのこと、よろしくね。くれぐれもイタズラしないように、ね?」