World Joker/Side-B

47話 劇的運命



「ギリギリ間に合ったぜ」

暗闇が心なしか薄らいだ気もするが、日の出はまだ先だ。

夜の砂漠は、どこか海に似ている。

魔法の絨毯から、地上を見下ろすアイボリー。

到着に気付いたレムが手を振ってきて。うっかり、手を振り返してしまう。

(友達じゃねぇっての!)

「・・・ん?」

地上には、人影がふたつ。ひとつはレムのもの。もうひとつは・・・

(杖持ってんな・・・もしかして召喚士?)

目を凝らして見ると。

(あいつ・・・王室付きの召喚士じゃね?そうそう、女みたいな顔した優男で・・・)

20代後半くらいの、気の弱そうな青年だ。

「何でレムと一緒に・・・て、やべぇじゃんか!!」

召喚士といえば、当たり前だが、召喚のプロだ。

オカルト好きの生徒を集めて・・・とは訳が違う。

どうやって運んできたかは謎だが、砂漠には、10m四方の巨大な石版が設置されていて。

そこに刻まれているのは、リヴァイアサン用の召喚魔法陣だ。

魔法の絨毯の高度を下げ、再び召喚士の方に目を遣ると、すいぶん怯えている様子だった。

(まさか・・・誘拐・・・とか?)

 

「よろしく頼むよ」

 

レムに声をかけられると、召喚士の青年は、意を決したように呪文の詠唱に入った。

石版に刻まれた魔法陣が光を放ち始める・・・

「!!」(レムの奴、本気だ!!)

「ヒスイ!起きろって!!」

アイボリーが激しく揺さぶるも。

「おにぃちゃぁ〜・・・もうすこしぃ〜・・・」

へにゃっと笑って、また眠るヒスイ。

「だめだわ、こりゃ・・・」と、その時。

「おわっ・・・!!?」

アイボリーは体勢を崩し、魔法の絨毯から落下。そしてなんと。

石版の角に頭をぶつけて。

「痛ってぇ〜・・・」

(あ〜・・・ぱっくりいってるっぽい・・・)

額を切ったらしく、大出血している。

(ここでオチてたまるかってんだ!ヒスイ、ぐーぐー寝てんだぞ!?巻き込まれる前になんとかしねぇと・・・)

歯を食いしばり、立ち上がるアイボリーだったが。

そのまま後ろへひっくり返り。間もなく、意識を失った。

 

 

 

「・・・ん?」(血のにおい・・・)

皮肉にも、これをきっかけに、ヒスイが目を覚ます。

「あれ?ここ・・・どこ???」

知らぬ間に、砂漠まで来ていた。更には・・・

「え―?」

“儀式”が完了し、喚び出された者がヒスイの目の前にいた。

「イフリート?なんで???」

炎の魔神と称されるイフリート。

人間に近い骨格をしているが、その大きさは人間の比ではなく、城ひとつ分もある。

全身から炎を放ち、空までも焼き尽くす勢いだ。

 

これには、首謀者のレムも唖然とする。

 

「・・・君には、リヴァイアサンの召喚を、と、お願いした筈ではないかな?」

トレードマークの三日月口を崩して話す。

「ご・・・ごめんなさいぃぃ〜・・・」

失敗しました〜と、か細い声で召喚士が謝罪する。

「わ、わざとじゃないんですぅぅ〜・・・」

「つ・か・え・な・い・ね、君」

計画が台無し。仕切り直すしかないと、レムは後方へと飛んで。

「自分のミスは自分でカバーしたまえ。さらば、クサレ召喚士」

辛うじて残された闇の中へと消えていった。

 

 

 

「あーくん!?」

石版の脇で伸びているアイボリーを発見し、ヒスイが叫んだ。

「危ない!!」※完全に手遅れです。

寝惚け半分、夢か現かもはっきりしないまま、イフリートにやられたものと勘違い。

その直後―

砂漠一帯の空気が、ヒリヒリと、痛いほど肌を刺激するものへと変わった。

冷気を極めた熱気のせいだ。

ヒスイがどんな魔法を使ったのかわからないが、ほんの十数秒の出来事だった。

イフリート周辺に竜巻を起こし、全身を凍らせてしまったのだ。

後に残るは、ダイヤモンドダスト。

イフリートは氷の石像となって、砂煙をあげながら、砂漠に倒れ込んだ。

 

 

 

実は、この時すでに、エクソシストの一団が砂漠を包囲していた。

その中に、二つの白装束。セレとマーキュリーの姿もある。

「見事にやってしまったね」と、この光景に笑うセレ。

「母が、とんでもないことをして申し訳ありません」

(何やってるんだ、あのひとは)

マーキュリーが頭を下げる。

対するセレは落ち着いたもので。マーキュリーにこう言った。

「あのイフリートを瞬間冷凍するなど、なかなかできる事ではないよ。姿こそ幼いがね、ヒスイは天才の部類に入るのだよ。血は争えないものだね」

通常では聞き取ることのできない複雑なものから、一言に簡略化したものまで、ありとあらゆる・・・何千何万という呪文が頭に詰まっている。※ほぼ未使用。

「惜しむらくは、相手を間違えてしまった事だね」

この場にいる誰もが目を疑う驚愕の事態。

リヴァイアサンの召喚で、イフリートが召喚され。

それだけでも驚きだというのに、ヒスイが攻撃を仕掛けてしまった。しかも一撃必殺の。

失敗に失敗が重なった、劇的運命。

「魔法陣の“向こう側”が黙っていないでしょう」

そう言って、マーキュリーが溜息を漏らす。するとセレは。

「ヒスイは我が子を守ろうとしただけだろう。母親の性ではないかね」

声のトーンを抑え「ここだけの話だがね」と、話を続ける。

「事件には違いないが、問題はないよ。むしろ、好都合だ。ヒスイの失敗には意義があるのでね」

「失敗に、意義?」

聞き返しても、答えがないのは、腹黒い大人の特徴。コハクで慣れている。

「・・・とにかく、あーくんを連れてきます」と、マーキュリー。

距離があるので、怪我の具合を目視することはできないが、風に血の匂いが混ざっている。

「その方が良いね、医療班を待機させておこう」

「よろしくお願いします」

 

 

 

「・・・・・・」(母親の性?)

アイボリー救出に向かう道すがら、マーキュリーが軽く首を傾げる。

(あーくんを守ろうとしたのは確かかもしれないけど・・・)

 

 

・・・あれは絶対、寝惚けてた。

  
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