World Joker/Side-B

48話 LOVEPOWER



(レムには逃げられるし・・・)

「大変なのは、これからだよ」

思わずボヤく、マーキュリー。

 

“召喚する側”と“召喚される側”の関係は、近年あまりうまくいっていないのだ。

過失召喚が頻発するようになってからは尚更、緊迫ムードが続いていたというのに。

ヒスイの暴走で、こちらから喧嘩を売る形になってしまった。状況悪化は必至だ。

 

「こんな時に限って、お父さんはいないし」そこまで言って。

「・・・避けたのは、僕か」と、溜息。

外泊をすると言ったものの、どこへ行く訳でもなく、夜の街を歩いていた。

「・・・・・・」(偶然だとは思うけど・・・)

そこで、総帥セレナイトに出会い、ここまで連れてこられたのである。

今宵、砂漠でリヴァイアサンの召喚が行われるという情報を、教会がどこから仕入れたのか・・・

腑に落ちない事ばかりだが、考えるときりがない。

 

石版の先にヒスイの姿が見えた。

(本当に・・・面倒なひとだな・・・いちいち手が焼けるというか・・・)

心の中ではそう思いながらも、努めて笑顔で。

「お母さん」優しく、声をかける。

「まーくん!!」

ヒスイは魔法の絨毯を乗り捨て、膝枕でアイボリーの介抱をしていた。

「・・・・・・」(なんだ、これ)

アイボリーの額の傷口が、絆創膏で、継ぎはぎだらけになっている。

横に走っている裂傷に対し、縦に絆創膏がべたべたと貼り付けられていた。

「私、回復魔法はほとんど使えないから」

持ち歩いていた絆創膏で手当てをしたらしいが・・・

「プッ・・・」(ごめん、あーくん。笑ってる場合じゃないんだけど)

フランケンシュタインのようだ。

ヒスイが真剣そのものなのが、また笑いを誘う。

(おかしなひとだな・・・昔から少しも変わらない)

「あーくん、死なないよね?」

「大丈夫ですよ。教会の医療班が待機してます」

行きましょう、と。マーキュリーはアイボリーを担ぎ。

「お母さん、ちゃんと目は覚めましたか?」

にっこり、ヒスイを見つめる。

「しっ・・・失礼ね!覚めたわよ!さっき!」

「そうですか」(さっき、って、いつだろう・・・)

 

 

 

現場に戻ると、そこには、トパーズとオニキスが合流していて。

なるほど、と、セレの言葉を理解する。

ヒスイが失敗すれば・・・異変を察した大物達が一斉に動く。

じき、コハクも姿を見せることだろう。確かに意義がある。

トパーズもオニキスもスーツ姿で。

恐らく、一睡もしないまま、駆け付けたのだ。

これはもう、愛の力、としかいいようがない。

「引き上げるぞ」と、オニキスが先陣を切った。

砂漠に沈んだイフリートを引き上げるのは、並大抵の事ではない。

そのうえ。解凍し、謝罪し、“向こう側”へ還さなければならないのだ。

「まったくあいつは何をやっているんだ」

お決まりの文句を言いながらも、オニキスの表情は穏やかだ・・・やはり対応に慣れている。

「あの馬鹿、寝惚けたか」と、マーキュリーの隣に立つトパーズ。

あの馬鹿=ヒスイは、アイボリーに付き添い、ここにはいない。

「そうだと思います」マーキュリーが頷くと。

トパーズは鼻で笑い、一言。

 

 

「面倒な女だ」

 

 

「そうですね」

マーキュリーもつられてうっかり本音を口にしてしまう。

手が焼ける女、おかしな女、やたらとイラつく女・・・

トパーズは、マーキュリーが常々思っていたことを、次々と言い当て。

そして―

 

 

「愛しい女」

 

 

―で、言葉を切った。

「そこは共感できません」

マーキュリーが即座に否定をするも。

トパーズは、僅かに口の端を上げ。少し笑っているように見えた。

「最後の忠告だ」と、煙草を咥え。

「オレがあいつを犯ったのは、“自覚がなかった”頃だ」

愛と憎しみの区別すらつかず。力任せに。

「体は喰ってやったが・・・代わりに心を喰われた」

「・・・・・・」

「オレと同じ道を辿りたくなければ、ヒスイを甘く見るな」

 

 

 

銀の兄弟の間で、密かにそんな話が交わされた一方で。

セレが、手招きをする。

 

 

「ヒスイ、ちょっといいかね?」

 
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