World Joker/Side-B

53話 王子で、野獣。




引き続き、本の中の監獄。

 

「・・・・・・」

(どうしようかな)

吸血行為のあと、発情することも知っている。

然るべき処置をしないと、体調を崩してしまうことも。

「・・・・・・」

(ずっと見てきたんだ・・・あーくんが、好きだ好きだと騒ぐから)

どこがそんなにいいのかと、品定めをしているうちに、同じ気持ちになる。

相手が母親だということを除けば、よくある恋の落ち方。

認めたくはないが、全く自覚がない訳でもなかった。

「・・・・・・」

 

 

好きでも、好きとは言えない。

母親と思えなくても、“お母さん”と呼ぶしかない。

兄弟はみんな僕を疑っているのに、お父さんは僕を信じようとしてる。

 

 

「なんだか・・・疲れる・・・」

そう呟き。マーキュリーが息を吐く。

(これだけ理性を失っていれば、セックスをするのは多分、簡単だ)

キスの続きを求めるように、ヒスイ自ら体を摺り寄せてくるのだ。

(被害者のフリをして、してしまおうか)

狂った感情だとわかっていても、ヒスイの中身を喰ってしまいたいと、内なる獣が騒ぐ。

「・・・貴方が悪いんですよ?」


※性描写カット


(やめた。こんなことをしても意味がない)

こうして、心を取り戻したマーキュリーだが・・・Sっ気は健在で。

(血はたっぷり飲んだから・・・)

このまま放っておけば、発情したまま、いつものヒスイに戻る。

その時、どんな顔をするのか・・・むしろそっちに興味が湧いた。

「折角なので、見せてもらいますよ、お母さん」

 

 

 

(あれ?わたし・・・)

ベッドの上、ヒスイが目覚める。渇きはすっかり治まっていた、が。

「あれ?あれれ???」

両手が縄で拘束されている。縄・・・それは、マーキュリーの鞭でもあった。

「まーくん?あ・・・」

何とか上体を起こし、マーキュリーを見ると。首筋に、牙のあと。

「!!」(私、やっちゃった!?)

鉄格子にぶつかってからの記憶が全くない。

「あの・・・まーくん」

「何ですか、お母さん」

「私、もしかして、まーくんの血を・・・」

否定も肯定もせず、曖昧に微笑むマーキュリーだったが、聞くまでもない。

「っ・・・ごめんね」

「いえ、大丈夫です」

「それであの・・・手が、動かせないんだけど・・・」

「すみません、急に襲われたので、びっくりしてしまって」

「!!襲っ・・・ちゃったの?私・・・」

性的な意味を含むのか、定かではないが。ヒスイは激しく動揺していた。

「ど・・・どこまで・・・その・・・」

「気にしないでください。ギリギリのところで済んだので」と、マーキュリー。

「ギリギリのところ!?」(って、どこなのよっ!?)

追及しようと、ヒスイが身を乗り出したところで。

「あッ・・・んッ!!」

声が喉に詰まり、再びベッドに倒れ込んでしまう。

「はぁはぁ」

粘膜という粘膜が、灼けるように熱い。

もとより、発情しているカラダだ。

(ああ・・・おにいちゃ・・・)



※性描写カット



(これじゃ、ひとりえっちもできない・・・)

「どうかしましたか?お母さん」

マーキュリーがベッドを覗き込み、言った。

「まーくん・・・そろそろこれ解いて・・・」

両手を使えるようにして欲しいと、ヒスイが懇願するも。

「はい?何か言いましたか?」

王子様スマイルで、完全スルーだ。

「・・・・・・」

(なんかまーくん、イジワル度増してる?気のせい・・・だよね???)

 

 

 

それから数十分が過ぎた。

 

「ん・・・ふ・・・」

体をうつ伏せにしたヒスイは、枕を噛んで声を殺し。


※性描写カット


マーキュリーは黙ってそれを見ていた。

 

 

「うわー、ドS心全開じゃん」

 

 

・・・と。何の前触れもなく現れた者がいた。

クマボディの、司書代理だ。

なにせ本の中なので、今更大した驚きもない。

マーキュリーは真顔で。

「ドS?誰がですか?」と、言った。

「自覚ないの?それヤバイって・・・あはは!!」

司書代理は陽気に笑い。

「ヒスイが発情してんの知ってて、拘束するとかさ、お前も相当歪んでるよな」

するとマーキュリーは、すぐにこう切り返した。

「・・・なぜ、母の名を?」

「お?そうくる?」

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