World Joker/Side-B

55話 夜伽



「二人で話せないかね」と、コハクを見るセレ。

「・・・その方が良さそうですね」

 

こうして二人は、トパーズ、アイボリーから距離を取り。

「何をそんなに心配しているのかね」

再びセレが話を切り出す。

「“向こう側”と人間界は確かに良好な関係とは言えないが、ヒスイは、かの天才召喚士メノウの愛娘・・・幻獣達も力を貸すだろう」

「ヒスイを万が一の危険にも晒したくない」

ぴしゃりと、コハクが言い返す。それからこう続けた。

「ベヒモスもリヴァイアサンも、僕からすれば格下の相手です。厄介なのは、ベヒモスが貴方であること。そして、そのベヒモスがリヴァイアサンを欲している ―なぜなら、ベヒモスとリヴァイアサンは対になる悪魔だから」

戦い方よりも、扱い方が問題なのだ。

「それをわざわざ“向こう側”で片付けさせようとするなんて」

 

 

「何を迷っているんですか?」

 

 

「迷うさ。私は、人間だからね」

「・・・・・・」

黙って、息をつくコハク。しばらくして。

「貴方が“何を考えているか”に、いちいち付き合う気はありません。僕はヒスイのところへ行く。こちら側の戦力も充分足りているでしょう」

「仕方がない。では、言い方を変えようか」と、セレ。

「喰った者に喰われる〜というのは、よくある話ではないかね」

「・・・・・・」

「私が私であることを放棄した時、後腐れなく始末できるのは、君しかいないと思うのだよ」

「随分な言い草ですね」

セレの謂わんとしていることを察してか、コハクが皮肉笑いを浮かべる。

「それはつまり、脅迫ですか?」

「息子達に手を汚させるのは、君も本意ではないだろう?」

「・・・・・・」

 

 

 

「何、話してんのかなー」

大人達の会話を盗み聞きしようと、アイボリーは抜き足差し足・・・しかしそこで。

「おとなしくしてろ」

トパーズに襟首を掴まれ、引き戻される。

「なー・・・」

そのままの体勢でトパーズを見上げるアイボリー。

「ヒスイって、リヴァイアサンを倒せるくらい強ぇの?」

「リヴァイアサンクラスの悪魔と渡り合う実力はある」

トパーズは弟の質問にそう答えた。

「・・・が、ヒスイは想像を上回るバカだ。何をやらかすか、わかったもんじゃない」

「あー・・・なんか、そんな気ぃするわ」

結局、放ってはおけないのだ。

けれども。コハクはセレと対峙したまま・・・動く気配がない。

「あいつが行かないなら、オレが行く」

すると、アイボリーが。

「仕事、休めんの?」

「・・・両立させるまでだ。オレを誰だと思ってる」

できないことなどない ―そう豪語するトパーズだったが。

「ヒスイのこと、独占できないじゃんか」

アイボリーにツッコミを入れられ。

「一言余計だ」と、額に神チョップ。

 

と、そこで。

 

オニキスが現れた。

「ヒスイから、連絡があった」

引き上げ作業の最中だが、内容を報告すべく足を運んだのだ。

眷属であるが故の、オニキスの特殊能力。

ヒスイの心の声を聴くことができる。

ただしそれは、自分に向けられた場合のみ、だが。

そもそも、ヒスイから連絡〜というのが、非常に珍しいことで。

トパーズとアイボリーが姿勢を正す。

オニキスは咳払いのあと、ヒスイの伝言を告げた。

 

 

「下着を届けて欲しい・・・そうだ」

 

 

「・・・・・・」トパーズ。

「・・・・・・」アイボリー。

言ったオニキスも「・・・・・・」。

(次から次へと・・・何をやっているんだ・・・あいつは・・・)

 

 

 

 

 

・・・本の中の監獄。

 

こちらは深夜だ。

人間界とは、たいぶ時間の流れが異なっている。

 

ひとつしかないベッドに、ヒスイとマーキュリーの姿。

互いに背中を向け合い、横になっていた。

くしゅん!薄暗い空間にヒスイのくしゃみが響く。

 

 

(お尻が寒い!!)←ヒスイ、心の叫び。

 

 

体が落ち着いたあと、慌てて毛糸のパンツとショーツを手洗いしたが、まだ乾かない・・・従って、ヒスイはノーパンだ。

お尻丸出しに慣れているとはいえ、石造りの室内の空気は冷たく。

暖を求め、ついつい、マーキュリーの方へ体を寄せてしまう。

「・・・・・・」

マーキュリーは無言で避けまくっていたが、ついに。

「あまりくっつかないで貰えますか」

笑顔で辛辣な言葉を吐いた。

「だって、寒いんだも・・・くしゅんッ!」

くしゃみをして、鼻を啜るヒスイ。

くしゅんッ!くしゅんッ!くしゅんッ!症状は悪化する一方で。

「・・・・・・」

体温を提供せざるを得ない。

(なんだろう・・・尋常じゃないストレスを感じる・・・)

近付くことで、より濃厚になった甘い香りに、マーキュリーもまた、悶々としていた。

 

とはいえ。こうしてヒスイと過ごす機会は滅多になく。

一対一で話をするには最適の環境であることに、マーキュリーは気付いていた。

「お母さん」

「なぁに?」

「・・・飼っていた悪魔を解放すると、どうなるんですか?」

「それって、セレのこと?くしゅんッ!」

「はい、少し気になることがあって」

「ん〜・・・すぐ“次”の悪魔を食べないと、死んじゃうんじゃないかな・・・くしゅんッ!!」

くしゃみにまみれたヒスイの回答。

対するマーキュリーは考え深げに。

「・・・そうですか」

 
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