World Joker/Side-B

58話 手錠とランジェリー



一方、連れ去られたアイボリーはというと。

「・・・・・・」
(どこだよ、ここは)

モルダバイトの砂漠から、遠く離れた見知らぬ土地。
大きな川の近くに、一人と一匹は着陸した。

レムリアンシードだという竜の外見は、凶暴、そのものもで。
見るからに硬そうな鱗を生やし、肢が6本・・・羽根は剣山のようなもので覆われている。

(強そうだけど、こんな竜、見たことねー・・・)

その異質さに、アイボリーが圧倒されていると。

「タラスクス ― と、呼ばれる竜だ。前神の創造物のひとつとでも言っておこうか」

と、レム。インテリめいた口ぶりはそのまま。

「この姿は、嫌いなんだ」

そう言って、すぐ人型へと変化する。

「・・・俺に何の用だよ」
「いやなに、可愛い後輩に、真相を明かそうと思ってね」
「真相?」

事の始まりは、数年前。
人間界に進出してきたベヒモスを、エクソシスト総帥セレナイトが、自身の体内に封じた ―

「その時から、対の悪魔に狙われることは、わかっていただろう。まとめて喰ってしまえばいいだけのこと・・・そう考えていたに違いないのに」
「・・・・・・」
(話、ついてけねーんだけど。こいつの言ってること丸暗記しときゃ、あとで役に立つだろ)

アイボリーは大人しくレムの話を聞いていた。

「ところがだよ、彼はなぜかそれをしなかった」

不思議に思い、しばらく傍観していたらしいが。
何年経っても、一向に動きを見せないので。

「それならいっそ、取り戻してしまおうと思った訳だよ。父も痺れを切らしていたしね。計画は、アイボリー君の、麗しの母君に台無しにされてしまったけど」
「う、うるせー・・・ウチの秘密兵器なんだよ!文句あっか!」
「元はと言えば、君が連れてきたせい」
「ひとりで来いなんて、言わなかっただろ」

はぁ。アイボリーは珍しく溜息ひとつ。

「そんで、これからどーすんだよ」
「先が読めなくなってきた。仕切り直すつもりでいたが、引き際のようだ」
「薄情だな、おい、父ちゃんのことはもういいのかよ」
「悪魔なんて、そんなものさ。それより・・・君のところの総帥が“何を考えているか”知りたくなった」

そして・・・レムの口から驚きの発言。

「僕達、手を組まないかい?」

「君の竜に、なってあげるよ」

 

同じ頃。本の中の監獄に。

「ヒスイ、アレ、持ってきたよ」

と、コハクの声が響いた。

「お兄ちゃん!!」

満面の笑みを浮かべたヒスイが駆け寄る。

(今度は夢じゃない・・・)

マーキュリー、心の声。
鉄格子の向こうには、はっきりとコハクの姿が見えて。更には・・・

(・・・総帥?)

目を疑う顔ぶれだ。

「お兄ちゃん!はやく!はやく!」

ぴょんぴょん飛んで急かすヒスイ。
コハクは、片手で鉄の棒を曲げ、檻の中へ入ってきた。
・・・が、しかし。

「・・・お兄ちゃん、何ソレ」

ヒスイの表情が一気に曇る。
コハクの左手と、セレの右手が、手錠で繋がっているのだ。

「ソレとは酷いね」

と、セレ。

「手錠はコハクの意向なのだがね」

しれっとした顔で言う。

「誰のせいだと思ってるんですか」

軽く横目で睨んだあと、コハクはヒスイの肩に手を置き、こう説得した。

「ヒスイ、この人は今 ―」

「目が離せない、困ったおじさんなんだ」

「だからこうして見張ってないと・・・」
「・・・トイレとか、どうするの?」

口を尖らせ、ヒスイが尋ねる。

「それはまあ、男同士だし。そんなに気にすることは・・・あ」
(まずいな)

と、すぐに思う。
ヒスイはなぜかセレを同性愛者扱いしているのだ。かなり根深い勘違いである。
以下、そんなヒスイの心の声。

(セレはホモなのよ!?見られ放題じゃない!!)

「・・・っ!!お兄ちゃんを返して!!」
「!!お母さ・・・」

マーキュリーが止めるより先に、セレに突撃するヒスイ。
握り拳で胸板を叩くも、全くダメージを与えられない・・・
セレはどこか楽しげに、ヒスイの相手をしていた。

「・・・・・・」

黙って見守るコハク。
一刻も早くヒスイに会うため、強行手段に出たが、当然リスクはある。

(この件が片付くまでは、えっちもセレ同伴になっちゃうんだけど・・・)

今は言えない雰囲気だなぁ・・・


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