World Joker/Side-B

61話 欲情空間〜純愛空間




「電話、代わってもらえますか?」

ぐったりとしたヒスイの体を片腕で抱き、セレから携帯を受け取るコハク・・・だったが。

「・・・・・・」
(切れてる・・・)

掛け直しても、他と通話中のようで、繋がらない。

「・・・・・・」
(トパーズも手を打ってるってことだろうけど)

仕方なく、ヒスイとの結合を解き、ベッドに横たわらせた。

「ヒスイ・・・」
(顔色が良くないな)

セックスの後とは思えないほど。
いつもの寝息と違って、呼吸も弱々しかった。
ヒスイが意識を失くしたことと、オニキスが倒れたことは、無関係ではない。

(ヒスイの体に何らかの負荷がかかっているんだ)

「何が起きているのか、私にはさっぱりだよ」と、セレ。
「在れに、意識も喰わせていたからね。何も見ていない」
「・・・でしょうね」

ヒスイの額にキスを落とし、コハクが離れる。

「どこへ行くのかね?」
「まーくんに聞きたいことがあるんです」
「ヒスイをひとり残していく気かね?」
「まさか」

とはいえ、セレと別行動もできない。
コハクは、久しく封印していた分身魔法を使い、もう一人の自分にヒスイの付き添いをさせることにした。
コハク本体と分身は険悪になりがちだが、今回ばかりは互いに頷き合い、協力を誓った。

(早く原因を特定しないと・・・最悪命に関わる)

取り乱してる場合じゃない。
 

「・・・あれ???オニキス???」

と、まばたきするヒスイ。
ここは・・・いわゆる、精神世界。
心の声が届くくらいだ。
二人で共有していても不思議ではない。
ヒスイ側の影響が強いのか、そこは、熾天使の羽根が降りしきる明るい空間で。
ミルクティの甘い香りがする。
二人とも、一糸纏わぬ姿でそこに居た。

「・・・・・・」

以下、オニキス、心の声。

(服を着ろ、と、言いたいところだが・・・)

なにせ自身も裸なので、貸してやれる服もない。
出会い頭、目のやり場に困ってしまう。
愛を知る男の辛いところだ。
ヒスイは、いつもの如く気にしていないようだが。
オニキスは、溜息を漏らさずにはいられなかった。

「はぁ・・・今度は何をした」
「え?何って・・・お兄ちゃんとえっちしてて・・・」
「・・・血を、飲んだのか」
「うん。そしたらなんか急に気が遠くなっちゃって」

オニキスも同じ症状に見舞われたのだ。

「・・・・・・」
(コハクの血が原因とは思えんが・・・)

ヒスイは過去に動物の血で食あたりを起こしている。
※WJ外伝「願わくば、世界の終わり」参照

今回は眷属にまで及ぶ重症だが、似た要因があるとすれば・・・

「他に口にしたものはあるか?コハクの血以外で、だ」
「う〜ん・・・あ!まーくんの血飲んだけど」
「マーキュリーの、だと?」
「うん」
「・・・どういう理由かはわからんが、“飲み合わせ”が悪いようだ。この不調は、恐らくそのせいだろう」
「え?そうなの?親子なのに???」

首を傾げるヒスイを尻目に。

「ああ」オニキスは短く返事をした。

「どうすればいいのかな?」と、ヒスイ。

「・・・・・・」

今の段階では、答えようがない。
精神世界に閉じ込められているのと同じなのだ。
他とコンタクトを取るのも難しい状況だ。
現世で、何とかしてもらうしかない。
そこでオニキスは・・・

「生きる希望を失わないことだ」と、ヒスイに言った。すると。

「あ、それなら平気。私、生きる気満々だから」

ヒスイはじっとオニキスを見上げ。

「こんなところで死ぬためにオニキスを眷属にした訳じゃない。生きるために ―」

「生きて、幸せになるために、眷属にしたんだから」

「まだ死なれちゃ困るの」

ヒスイの発言に、オニキスは少々目を丸くしつつ・・・次の瞬間、破顔一笑。
両手でヒスイの頬を包み込み、こう口にした。

「お前の目には、オレがそんなに不幸な男に映っているのか?」
「そ・・・そうじゃないけどっ!よりよい幸せを、ってこと!だって、ほらっ!」

「私がまた女の子産むかもしれないでしょ?」
「・・・・・・」
(まだ諦めていなかったのか・・・)

よりよい幸せを願ってくれるのは嬉しいが・・・

「・・・ヒスイ、それは無謀だ」
「え?なんで???」
「・・・ならば仮に、オレがその娘を愛したとする」

オニキスにしては珍しく、意地悪な言い回しで。

「だが、その娘がオレを愛するとは限らんだろう?」
「そんなことないよ」
と、言い切るヒスイ。

「一緒にいたら、どんな女の子だって、オニキスのこと好きになるから」
「・・・お前は?」
「・・・ならないけど」
「・・・・・・」×2

しばらく顔を見合わせ。
両者、吹き出す。

「このまま死んじゃったりしないよね?」

と、笑いながらヒスイが言った。
オニキスも笑いながら。

「大丈夫だ」

今度はしっかりとそう答え。
ヒスイの頬に触れていた手を、首の後ろに回し、抱き寄せた。

「お前を愛する者達が、決してお前を死なせはしない ―」


こちら、モルダバイト西の砂漠では。

「オニキス殿!!しっかりしろ!!」

シトリンが、コハクの分まで取り乱していた。

「兄上ぇぇぇ!!!これはどういうことだ!?まさか母上の身に何かが起きているのではあるまいな!?」
「お前にしては頭が回るな」

通話を終了したトパーズが、携帯を片手に鼻で笑う。

「笑っている場合か!!一刻も早く、イフリートを元に戻し、母上と引き換えねば!!」

そうは言っても。
ヒスイが土壇場で使った魔法は、非常にハイレベルで。
一般の魔道士では解凍が難しいのだ。
その上、頼みの綱であるオニキスがリタイアとなると・・・

「兄上、手伝ってくれ!!」
「必要ない。イフリートはしばらくその辺に転がしとけ」
「!?何を言っている!!鬼畜趣向も大概に・・・」

トパーズに掴みかかるシトリンだったが。

「黙れ」強制的に猫の姿に戻され、逆に首根っこを掴まれる。

「この方が都合がいい」と、トパーズ。

「なにせ“向こう側”には、いい医者がいるからな」

 

 
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