World Joker/Side-B

70話 調教Time



無限空間を象徴するかのような、闇一色の本の中で。

「― なんてね」

と、鼻で笑うコハク。
これまでの調教は、ベヒモスの弱体化を目的に行われてきた。
主であるセレが制御しやすいように、だ。

しかし。

「今回は、趣向を変えてみましょうか」

コハクが手錠を掴み、溶かす・・・武器化するためだ。

「神の特殊金属だけあって、なかなか切れ味が良さそうだ」

完成した細身の剣をひと振りすると、切断された何かが落ちる音がした。
どうやら、ベヒモスの体の一部らしい。

立ち込める血の匂い。
凄まじい咆哮と、反撃の突進。
コハクは熾天使の羽根を広げ、上空で躱した。

「・・・・・・」
(リヴァイアサンを放置してきた理由は、大体見当がつく)

そのまま、攻撃の手を止め、侵食が進むのを待つコハク。

「これは、あなたが望んだことですよね?総帥」

一応声をかけたが、セレの返事はなく。
しばらくして、再びコハクが口を開いた。

「・・・僕の声が聞こえるかな?久しぶりだね」

“暴食”の悪魔、ベヒモス。

 

その頃、隣のページでは。

「やっと二人きりになれたなぁ」

しみじみと、そう口にする、クーマンこと、メノウ。
ヒスイはまだ眠っているが・・・それでいいのだ。

「そんじゃ、紹介してやるよ。俺の愛娘、ヒスイだ」

メノウは、何もない空間に向け、言い放った。すると。
1つ、2つ、光の玉が現れ・・・3つ、4つ・・・最終的には20を超えて。
ヒスイの周囲を回遊する。

幻獣会メンバーの思念体だ。
縮小化させた本体の幻影に独自の光を纏っているのだ。

それぞれが発する声は・・・

“わーい!ヒスイ!ヒスイ!”幼い子供のものだったり。
“メノウに似て美人ね”アダルトな女のものだったり。
“これはこれは、噂以上の美しさ”キザな男のものだったり。

他にも・・・

“きゃー!!ちっちゃーい!!”
“怖いくらい綺麗・・・”
“銀の吸血鬼だもの。あたりまえよ”
“ともだちになれるかな?”

実に様々な声が入り混じる。
が、皆一様に“会いたかった”と、語る。

旧友ともいえる天才召喚士メノウの娘に、幻獣達は興味津々だったのだ。
メノウはメノウで娘自慢がしたかった・・・それだけのことで。
幻獣会が人質を要求したのは、怒りからではなく、親愛によるものだった。

「イフリートのやつは災難だったけどな」と、メノウ。

召喚士ラピスラズリは、メノウの弟子のひとりであり、才能はあれど、本番に弱いタイプと知っていた。
また、あの流れで人質を要求すれば、ヒスイ自ら名乗りを挙げるであろうことも・・・
つまり、劇的運命に幻獣会側が便乗したのだ。
一芝居打ったのは、メノウがここに居ることを公にしたくなかったからだ。

「ん・・・ぱんつ・・・」

ヒスイが目を覚ますと、光の群れは一斉に消え。

「・・・あれ?クーマン?お兄ちゃん・・・は?」

「あー・・・」少々答えに困るが。

「今度はセレが調子悪くして、付き添ってる。んで、これヒスイに、ってさ」

適当に誤魔化し。
メノウは、コハクから預かった大人向けのショーツをヒスイに手渡した。

「・・・・・・」
(なによ・・・これ・・・お兄ちゃんのえっち!!)

文句を言おうにも、コハクはいない。
ヒスイはしばし悩んだ末・・・それを身に着けた。

エッチな下着>濡れた下着

 

・・・という結論に達したのだ。
コハクの思惑通りである。

着け心地は、紐を巻き付けただけに近いが。

「穿かないよりマシよね、うん」
(恥ずかしくてヒトには見せられないけど)

心なしか、お尻が暖かくなった気がする。

パンッ!パンッ!

と、スカート越し、お尻を叩いて気合いを入れ。
ヒスイは、クーマンに向け、言った。

「私、まーくん追いかける」
「んじゃ、近くまで送ってやるよ」

そして―

トパーズと別れ、ひとり荒野を歩くマーキュリーのもとへヒスイが届けられた。

「まーくん!!」
「お母・・・さん?」
(と、お祖父さん?)

クマの着ぐるみが操る天馬に跨っているヒスイ。

「ここでいいわ!ありがと!」

と、礼を述べ。

「たぁっ!!」

めずらしく、華麗に飛び降りる・・・が。
途中、スカートは捲れっ放しで。
恥かしいデザインのパンツが丸見えだった。

着地を決めた本人は得意顔をしているので。
マーキュリーは小さく溜息を漏らし。

(今のは、見なかったことにしよう)

お母さんのためにも。
僕のためにも。



 
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