World Joker/Side-B

72話 相合傘



場面は再び、幻獣会へと戻る。

そこに居るのは、メノウとセレだ。
鎖で繋がれた二人・・・横たわったセレの傍ら、メノウが腰を下ろす。

「ずいぶん深く沈められたモンだなぁ・・・」
(コハクの奴、ホントにセレを生かす気あんのかな)

苦々しい笑いを浮かべ、ぴくりとも動かないセレを覗き込むメノウ。

「おーい、そろそろ目ぇ覚ませー」

回復魔法で覚醒を促進する。
間もなく、セレは意識を取り戻し。

「死に近いところにいたよ」

と、言って、体を起こした。
パートナーが変わったことに関しては、驚いていないようだ。

「見て来い、と謂わんばかりにね、コハクに叩き落とされた。その間に、ベヒモスと話を付けたようだが ―」

内容は巧妙に隠蔽されていて。
ベヒモスの保有者であるセレでさえ、読み解くことができない状態になっていた。
セレは肩を竦め。

「裁きの天使の考えることはわからないね」
 

その頃のコハクといえば・・・
大きく羽根を広げ、魔界の空を飛んでいた。
表情はいつになく深刻だ。

「・・・・・・」
(ひとりでまーくんを追うなんて・・・)

母親として、放っておけないのは理解できる。

(けど、最近どうも・・・)

ヒスイの“僕離れ”が進んでる気がする。
※しょっちゅう懸念してます。

(あーくんもまーくんもそんなにヤワじゃないし)

幼い時分から、お仕置きを兼ね、鍛えてきた。

(基礎はしっかりできてる筈なんだ。今の勢力図から考えても、命を落とすことはない)

やはり心配の種は・・・

「ヒスイぃぃぃ〜!!待っててね!!今、お兄ちゃんが行くから!!」
(“僕離れ”なんて、させてたまるか!!)←裁きの天使の考えること。


そしてまた、幻獣会・・・
図書室ならではの静かな空間に。

「大抵の人間は ―」

低く落ち着いたセレの声が響く。

「涙を流しながらも、身近な者の死を受け入れることができる。それは何故かと思うかね?」

「いつか自分も同じ場所にいくことを、知っているからではないかね」

「その時は、必ず訪れる。人間である限り ―」
「・・・半分同感、とだけ言っとく」

と、メノウ。

「この調子でタヌキに化かされちゃ、たまんないからな」
「私が嘘を言っているとでもいうのかね?」セレが笑う。
「あながちそうでもないから、化かされるんだろ」メノウもまた笑った。

「んじゃ、俺らもぼちぼち向かうか」


こちら、アイボリーとレムリアンシード。
逃走に手こずり、いつしか、リヴァイアサンとの本格的な戦いへ突入していた。

「なんかすげぇことになってるし」

レムリアンシード=タラスクスの背から地上を見下ろすと。
剥き出しになった地表に亀裂が走り、溶岩が湧き出している。
リヴァイアサンが暴れ回った結果、広範囲に渡り灼熱地帯と化していた。

「あちーよ・・・」

今までに経験したことのないような熱気だ。
次から次と、アイボリーの首筋を汗が伝う。

グォォォォォ!!

止まぬ咆哮。戦いは激化する一方で。
人間でいうところの殴り合い・・・タラスクスとリヴァイアサンが、尻尾と尻尾を激しくぶつけ合う。
その衝撃で、剥がれて飛び散る互いの鱗が、鋭い刃となり、地に刺さる。
事ある度にリヴァイアサンが吐き出す炎を、羽根を盾代わりに防ぐタラスクスだったが、焦げた匂いが段々と強くなってきた。

「お前、大丈夫なのかよ」と、アイボリー。
「君とは、確固たる友情を築いておきたいからね。ここは守るよ」

レムはそう言うが、劣勢なのはアイボリーでもわかる。

「・・・おし!そんじゃ、俺も奥の手使うぜ」
「奥の手?」
「いいから、ギリギリまで近付け」

至近距離で、リヴァイアサンに左手を向けるアイボリー・・・
だが、特にそこから攻撃ビーム的な何かが出る訳でもなく。

「・・・何をしているんだい。君は」

と、レム。アイボリーの左の手のひらには、神の紋様。
修業中、トパーズの手のひらに時折現れるものを盗み見て覚えた。
アイボリー自身の手描きなので、当然、神の力は宿っていない。
つまりはハッタリなのだが、神との繋がりを誇示する分には充分だ。
それをリヴァイアサンの目元付近でチラつかせ、アイボリーは大声で言った。

「いいか!これ以上暴れたら、トパーズ・・・」

「俺の兄ちゃんに言いつける!!」

「兄ちゃんは“神”だかんな!お前、ただじゃ済まねぇぜ!?」
「アイボリー君・・・小学生同士の喧嘩じゃないんだから、そんなものが通用・・・」

・・・しているようだ。
リヴァイアサンの猛攻が止まった。更に。

「アイボリー君、見たまえよ。相合傘の援軍だ」

レムがアイボリーの視線を地上へと促す。

「んっ?相合傘?援軍?」

防御魔法で創り出した傘の下、肩を並べる男と女・・・

「!!まー!!ヒスイ!!」

 
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