World Joker/Side-B

番外編

ルールブック

World Joker/side-B 23話〜分岐したもうひとつのストーリー
番外編「監禁ラブアピール」を前提とした内容。


[前編]

トパーズとコハクがやってきたのは、大陸地図の外。
人間界でも、文化の異なる島国だった。
モルダバイトとは、かなりの気温差がある。
雲ひとつない空から直射日光が降り注ぎ、とにかく暑いのだ。
紫外線が突き刺さるように、肌を刺激する。

「君は日焼け止めを塗った方がいいと思うよ」

と、コハク。
途中、立ち寄った店で購入した、SPF100・PA+++の日焼け止めをトパーズに投げ渡す、が。

「余計なお世話だ」

と、すぐさま投げ返された。
天使は基本、太陽の光に強い。
コハクもそうだ。
汗すらかいていない。
一方トパーズは“神”とはいえ、その肉体には吸血鬼の名残りがある。
いくら涼しい顔をしていても。

(この猛暑じゃキツイだろうに)

肩を竦め、コハクは苦笑した。
アイボリーの髪色を変える魔法薬・・・現在不足している材料は、岩塩。
この島でしか入手できない、特殊なもので。
真冬の氷点下でないと採取できない。
それも、数年に一度あるかないか、とか。

「確かに今は、その時期じゃないよね」

当然、対応策があってのことと、コハクは気楽にしていたが。
トパーズと連れ立って歩くうちに、予想だにしない場所へと到着した。

「これは・・・ストリートバスケ?」
「そうだ」

トパーズが言うには。
強豪バスケットチームが、もう何年も王者として君臨しているらしい。
力を持て余した彼等は、賭けバスケを始め。
日々、挑戦者を待っている―その現場に立ち入ったという訳だ。

「こいつらが岩塩を持ってる。勝てば手に入るぞ」

と、トパーズ。

「了解」

コハクは笑顔で相槌を打った。
ストリート、と言っても炎天下の屋外でプレイするという点を除けば、正式なバスケットの試合と変わらない。
足場こそコンクリートだが、コートの造りはきちんとしていた。
ルールに則って、試合は5人対5人で行われる。

「10分で覚えろ」

と、トパーズからコハクへ。
手渡されたのは、バスケットのルールブック。
コハクはページを開き、紙面に視線を落とした。

「・・・で、メンバーはどうするつもり?」
「問題ない。集めてきた」

その言葉に、コハクが顔を上げる。
軽く顎で後方を指すトパーズ。
そこには確かに3名控えていた。
が、しかし。

「・・・・・・」
(何なの、この顔ぶれ)
コハク、心の声。

まず目に付いたのは、ヒスイのストーカー、アザゼル。
気に食わない相手である。
“ヒスイたんLOVE”のロゴがプリントされたTシャツを着ているのを見ると、殴り飛ばしたくなる。
屋敷近くでウロウロしていたところを捕獲してきた、と、トパーズは言う。
そして、続くはこの2人。
テルルとスモーキーのアンデッド商会組だ。
取り上げた力を餌に、テルルを呼び出したトパーズ。
誰でもいいから、もう1人連れて来い―と、頭数合わせの追加指示をして。
結果、こうなった。
コハクは、チームメイトとなる3人の顔を改めて眺め。

「・・・・・・」
最悪の人選に、思わず溜息。
(なんてやりにくい・・・)

テルルとアザゼルは、何度か半殺しにした経歴があり。
スモーキーに至っては、一回殺している。
気まずい関係もいいところだ。
一体どうやってコミュニケーションを取れというのか。

「性格悪いね、君」

横目でトパーズを見て、コハクが呟くと。

「クク、自業自得だ」

トパーズは、ざまあみろ、とばかりに鼻で笑った。

【PG】ポイントガード=トパーズ
【SG】シューティングガード=アザゼル
【SF】スモールフォワード=スモーキー
【PF】パワーフォワード=テルル
【C】センター=コハク

トパーズがポジションを言い渡し。

「いいか、“人間らしく”だ」

と、念を押す。
あくまでここは人間界。
島の民も、選手も、すべて人間なのだ。
魔法禁止は勿論、正体がバレるようなことは、あってはならない。
天使と悪魔、そして神が・・・ストリートバスケ。
ちなみに、経験者はゼロだ。

「・・・・・・」

あまりに不利な条件に、コハクも言葉を失う。

(勝てるのかな・・・このメンバーで)

「・・・まあ、勝つしかないんだけどね」
 
 
 
[後編]



「・・・・・・」
(やっぱりというか何というか)

引き続き、コハク、心の声。
初戦はボロ負けした・・・が。
幸いにも、賭けバスケであるため、賭けるものさえあれば何度でも挑戦できる。
これまた幸いにも、アンデット商会幹部、仮面の男スモーキーが良い身なりをしており。
高級腕時計、財布、ライター諸々・・・賭けるものはいくらでもあった。

(でもね、時間がないんだ)

こうして負けを重ねれば重ねるほど、ヒスイとの距離が開いてしまう。

(さっさと一勝しないと)

コハクの脳内は、今日もやっぱり“ヒスイ”でいっぱいなのだ。
そして。現在、作戦会議中・・・
 
「ルールを守れ、三馬鹿め」

と、トパーズ。
テルル、アザゼル、スモーキー、悪魔トリオを足蹴にする。
ボールを回せば、トラベリング率100%のテルルと。
ボールを回せば、怖がって避けるアザゼル。
スモーキーは足も速く、ドリブルも上手いが、あさっての方向にパスをする。
仮面のせいで、周囲があまり見えていないと思われる。

「その鬱陶しい仮面を外せ」

スモーキーの正面に立ち、トパーズが命じた。

「フフ・・・肉体があの世へイッちゃいますねぇ、僕・・・うぉふッ!!!」

薄ら笑いを浮かべるスモーキーの腹に一発。
拳を打ち込むトパーズ・・・
仮面は、スモーキーの生命維持装置のようなものであり、外すことは死を意味するに近い―のだが。

「・・・秘孔を突いた。これで貴様はしばらくイケない。仮面を外して試合に専念しろ」
「ぐふッ・・・それは有難いことで」

マゾヒズム全開で、痛みに感じているスモーキーを放置。
トパーズはコハクに向き直り。

「揃えた駒が弱い訳じゃない。後はお前の使い方次第だ。こういうのは、得意分野だろうが」

そう、吐き捨てた。

「・・・・・・」
(言われてみれば・・・)

コハクはしばらく考えたのち・・・

「うん、わかった。10分くらい席外すね」

と、会場を離れた。
今のうちに、と。
トパーズの視線が日焼け止めを探る。
しかし。ベンチの片隅、確かにコハクが置いた筈のそこにはなく。
なぜか、テルルが手にしていた。

「・・・・・・」

奪われた日焼け止め。
トパーズが無言で睨むも、テルルは全く意に介さず。

「悪魔は常に美しくなくてはの。日焼けしている場合ではないのじゃ」

青白いのが理想〜と、顔から腕まで塗りたくり。
トパーズの目の前で一本使い切った。

「・・・・・・」

軽く殺意を覚えるが、今、欠員を出す訳にはいかない。
気を紛らわせようと、煙草を咥えるトパーズ。
こうしている間にも、じりじりと肌が灼かれている・・・
今回の働き次第では、力を返してやってもいいと考えていたが。
もはやそれどころではない。

(白紙決定だ。貴様は永久に会社勤めしてろ。青白い顔でな)
 

10分後。

「お待たせ」

と、コハク。
戻って早々、トパーズの肩に腕をかけ、顔を寄せる。

「協力してくれるよね?」

内緒話としばしの共同作業の末、メンバーにお披露目されたのは。
“アンデット商会”の企業名が入ったユニホームだった。

「ほう、良いではないか」
「ああ、素敵ですねぇ」

アンデット商会勤務のテルルとスモーキーは喜びを露わに。
そこですかさずコハクが、爽やかな笑顔で言い放った。

「企業名を背負う訳だし、カッコ悪い試合はできないよね?」
「宣伝効果も抜群だ。勝てば、の話だが」

と、トパーズが付け加える。
すると・・・アンデット商会組の目つきが変わった。

「どれ、ルールブックとやらを見せてみよ」

これまで好き勝手やっていたテルルが、ルールブックを熱心に読み出し、横からスモーキーも覗き込んでいる。

(さて、次は・・・)

コハクはアザゼルの傍に寄り、こう話しかけた。

「プラズマくん、だよね」
「!!拙者の名を知っているでありますか」
「うん、サルファーから聞いた」

名前を呼ばれるというのは、不思議と嬉しいもので。
“ヒスイたんLOVE”Tシャツを褒められれば尚更。親しくなった気がしてくる。
コハクを恐れ避けていたプラズマだが、コハクの言葉に耳を貸す気になったようだ。

「3Pシュートを狙って」

軽く背中を叩き、コハクが激励する。

「拙者スポーツは苦手で・・・できるかどうか・・・」
「外してもいい。リバウンドを取る。手元にボールがきたら、とにかく打って」

弱気な発言をするプラズマを、優しく穏やかな口調で説得し。
コハクはこんな質問をした。

「プラズマくんは、バスケット漫画を読んだことがある?」
「あ・・・あるであります」
「だったらわかるよね?3Pシューターの重要さが。君にぴったりのポジションだと思うんだ」
「や、やってみるであります!!」

オタク心を刺激されたプラズマは、急にやる気になって。
居ても立っても居られなくなったのか、自らシュート練習に入った。
ちなみにコハクは、バスケット漫画を読んだことがない。
3Pシューター云々は、鎌かけである。

「そうそう、君にはこれね」

と、コハク。
今度は、トパーズにあるものを手渡した。

「・・・馬鹿にしてるのか」

トパーズが声を低くする。
受け取ったレシートの裏が、コハクお手製の“おはなし券”になっているのだ。

「馬鹿にしてる?とんでもない」

と、コハクは笑い。

「君の知らない、ヒスイの昔話をしてあげよう―これはその誓約書だ」

“おはなし券”には、“勝ったら有効”と書かれている。さすがにぬかりはない。

「・・・いちいち手の込んだことしやがって」

言いながら、レシートをひったくるトパーズ。

「どう?やる気が出てきたでしょ?どんな形であれ、モチベーションを上げるのは大切なことだよ」
「負けっ放しが性に合わないだけだ。オレも暇じゃない。さっさと終わらせるぞ」
「くすっ、了解」
 「次は勝つ!!」×5

それぞれに、負けられない理由ができた。
試合開始直後は、取ったり取られたりのシーソーゲームだったが。
スモーキーが華奢な体でファウルを誘い、相手のペースを乱すと。
テルルがリバウンドに競り勝つようになり。
プラズマの3Pシュートが成功し始めた。
トパーズが器用にパスを通し。コハクが確実にゴールを決める。
ポストを揺らすダンクシュートから、アリウープ、レッグスルーに至るまで・・・
ルールブックに載っていた様々な技を使い、得点を挙げ―30点以上の差をつけて勝利。
岩塩を手に入れた。
王者の敗北はビックニュースである。
しかも相手は謎の素人軍団。
そのユニホームに刻まれたアンデット商会の名が、島じゅうに知れ渡るのも時間の問題だ。
人が集まる中、チームは解散。
 
「それじゃあ、僕はこれで。お疲れ様」

岩塩をトパーズに託し、コハクは先を急いだ。

(なんだか妙な気分だなぁ)

手のひらに、微かな痺れが残っている。
相容れない者達が、ひとつのボールで繋がっていた時間。

「僕達の関係が変わるわけじゃないけど」
(この感覚が残っている間は、チームメイトってことで)

「うん、なかなか楽しかった」

“ヒスイたんLOVE”のTシャツも頂いたことだしね。※無断で。
岩塩を巡るスポーツの祭典は―これで、おしまい。

 
 
+++END+++



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