World Joker/Side-B

23話 キス待ち



チビドラゴンを囲むは、男子4名。

アイボリー、マーキュリー、コハク、トパーズ。

アイボリーを除く3名は、“チビドラゴン=変身したヒスイ”だということに気付いていた・・・気付いていたが、それをヒスイに悟られてはなるまいと各々が平静を装っていた。

(か・・・可愛いすぎる・・・っ!!!)コハク、再び心の声。

斜めがけしているショルダーバッグは、まだヒスイが幼い頃、コハクがプレゼントしたもので。

タンポポのパッチワークが施された、ハンドメイドである。

(正体、隠す気あるのかな)

笑いを堪えるのが、本当に辛くなってきた。

クールが売りのトパーズでさえ、口元が引き攣っている。

唯一、マーキュリーだけがポーカーフェイスを保っていた。

「・・・・・・」(俺より小せぇし)

産まれたて、とはいえ、想像していたドラゴンと大分違う・・・アイボリーも扱いに困っていた。

「こんなんで、俺、乗せられんの?」

思わずそう呟くと。チビドラゴン=ヒスイは、乗ってみて!とばかりに背を向けた。

結果、こうなる。

 

 

「・・・これって、ただのおんぶじゃね?」

 

 

そこですかさずコハクが。

「いやいや、カッコイイよ」と、言った。すべてヒスイのためだ。

・・・が、言ったそばから、べちゃり。パワー不足でヒスイが潰れる。

15歳の息子はやっぱり重かったのだ。

「なんか、ダセェ〜・・・」

「!!」(え!?私・・・ダサイの!?)

これでも図鑑を見て随分研究したのだが。

アイボリーの辛口評価に戸惑いを隠せない。

 

 

「そんなことないよ、ねぇ」

 

 

と、コハク。がっちり、アイボリーの頭を掴む。

顔は笑っているが、目元に影が差していた。

こういう時は、口ごたえ厳禁だ。

(なんなんだよ・・・この空気・・・ドラゴン愛護?)

まさに。ヒスイを守ろうとするあまり、殺気立っているのだ。

「女の子なんだから、優しくしてあげないと、ね?」

コハクが更に念を押す、と。

「雌?こいつ、チンコないの?」

尻尾を持ち上げ、性器を確認しようとするアイボリー。

そのお尻に、ドカッ!トパーズの蹴りが決まる。

「ってぇ〜・・・何すんだよ・・・!!」

「危なかったね。竜は嫌がるんだ、そういうの」

トパーズの暴力に、コハクが尤もらしい理由をつける・・・絶妙なコンビネーション。

「襲われることもあるから、気を付けてね?」

脅しをかけるのも忘れない。

「モタモタしてると遅刻するぞ」

腕時計に視線を落とし、トパーズが時刻を告げる。

チビドラゴン騒ぎで、すでに20分が経過していたのだ。
予定していなかったロスだ。

試験に遅れるなど、論外である。

パートナーのマーキュリーは、いつの間にかいなくなっていた。
どうやら、一足先に出発したようだ。

「この際、四の五の言ってらんねー!!行くぜ!!チビドラ!!」

アイボリーも、慌てて屋敷を飛び出す。

 

ここは当然、ヒスイも続くはずの場面だが・・・

 

なぜかコハクの前で立ち止まり。上向きで目をつぶっている。

何事かと思えば・・・

(ああ、いってらっしゃいのキスね)

ぷぷっ、ついにコハクが吹き出す。

ヒスイは・・・キス待ちをしていたのだ。

本人にそのつもりはなくても、日々の習慣が露呈してしまっている。

幸い双子が家を出た後なので、心置きなく、唇(?)を重ね。

「これで・・・いいかな?」と、微笑むコハク。

すると、ヒスイは満足したらしく。

ペタペタ廊下を歩いて、玄関から出ていった・・・あくまで自分はドラゴンのつもりで。

「いってらっしゃい」

笑いながら、コハクが手を振る。

(さて、僕もこっそり同行してフォローを・・・)

あの調子では、順風満帆にいくとは思えない。

コハクがソワソワしだしたところで。

トパーズが、肩を掴んだ。

「話がある。ツラ貸せ」

 

 

 

「・・・え?どういうこと?材料がないって」

「在庫切れで手に入らない」

アイボリーの毛染めに使っている魔法薬の原料のひとつが、どこの店にもないという。

「直接、現地に出向くしかない、が」

今は収穫に適した時期ではなく・・・

トパーズが、わざわざこのタイミングで切り出したのを考慮すると。

「ひとりじゃ難しい、とか?」

「そういうことだ」

アイボリーを巡る、不思議な縁。

「まさか、君と組むことになるとはね」と、苦笑いするコハク。

「最高に、不本意だ」

「ははは、僕もだよ」

互いにそうは言っても。秘密裏に外出する機会は今しかない。

「すぐに出掛けるぞ」

「はいはい」(ヒスイ、大丈夫かな〜・・・)

 

 

ここが分岐点となり。

それぞれが、それぞれのステージへと進むことになるのだった―


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