World Joker/Side-B

番外編短編(No.41)

真冬のある日。エクソシスト教会…

※番外編過剰スキンシップを読まれた後向け



モルダバイトの空一面に灰色の厚雲が広がる、真冬のある日。

エクソシスト教会の廊下を走る美少女、ヒスイ。
その手に抱えているのは、バスケット。
中にはカップケーキが沢山入っている。
いろとりどりのクリームでデコレートされたそれは、見ているだけでも楽しい。
3時のおやつにコハクが作った絶品スイーツを、寮にいる子供達に届けにきたのだ。
(お兄ちゃんのおやつ、みんな大好きだもんね!)
子供達の喜ぶ顔が浮かび、自然と足も速くなる。
ところがそこで。


「!?ひぁ・・・っ!!」


ヒスイが何かに躓き、体勢を崩した。
足元に、透明な一本の糸が張られていた。
思わぬトラップ・・・ヒスイは前のめりで、派手に転んだ。
「っ・・・いたぁ・・・」
「何やってんだ、お前」
「!!トパーズ」
良かったぁ〜、と、顔を緩ませるヒスイ。
転倒の際、勢いよくヒスイの手を離れたカップケーキ入りのバスケットは、トパーズが見事キャッチしていた。
・・・と、その時。


「ちょっとぉ〜、ママを苛めていいのは、アクアだけだって、前から言ってるよねぇ〜?」※女子では、の意※


次女アクアが廊下の角から姿を現し、ヒスイの背後に潜んでいた人物に言い放った。


「誰が決めた」


短くそう言い返したのは、食堂勤務エクソシスト、プレナイトだ。
「ヒスイはわたしが苛めて、遊ぶ」
堂々とアクアの前に立つ。トラップを仕掛けたのは・・・プレナだった。
「はぁ〜っ?何それぇ〜」
二人共かなりの長身で。睨み合うと物凄い迫力だ。
“ヒスイ苛め”を巡り、火花を散らす、ドS女子二人。
今にもバトルに発展しそうだ。
「え?ちょっ・・・」
ヒスイは訳がわからないまま、起き上がることすら忘れている。
「ホラ立て」と、そこでトパーズがヒスイの腕を掴んだ。
「来い。治療してやる」
「治療?あ・・・」
言われてみれば、膝がヒリヒリする。
擦り剥き、少し血が出ていた。
「でもアクア達が・・・ちょっとヘンだよ?」
「放っとけ」
アクアとプレナの周囲に人だかりができる。
教会恒例の賭けが始まったのだ。
コハクvsトパーズ、ジストvsサルファー、そしてアクアvsプレナへと引き継がれたようだ。
「最近あんな感じだ」
「あ・・・そう」




エクソシスト正員寮。トパーズの部屋にて。

「そこに座れ」
「うん」
言われるがまま、ベッドの端に腰掛けるヒスイ。
今日は寒いね、などと言いながら、足をブラブラさせる。
「動かすな。やりづらい」
そう言って、トパーズがヒスイの足首を握った。
膝に口づけ、ヒスイの傷を消し去ると、そこに舌を這わせる・・・
軽く足を持ち上げ、そのまま、ふくらはぎを舐めようとした時だった。
「あ!見て!トパーズ!雪だよ!」
ヒスイが窓辺を指差した。
「・・・・・・」
ヒスイの足から手を離し、雪を見るトパーズ。
モルダバイトで雪が降るのは珍しい。
これまでも数えるほどしかない。
「・・・・・・」
子供の頃、こんな雪の日に熱を出したことがあった。
あの時、ヒスイはいなかった。
けれども今日は、ここにいて。
窓を開け、嬉々とした表情で雪空を見上げている。
トパーズが後ろに立つと、視線を雪に向けたまま。


「ね、トパーズは今幸せ?」


唐突に尋ねてきた。
どうやらヒスイは、この質問をするのが好きらしい。
「教えない」と、トパーズ。
それから「お前はどうだ?」と、逆にヒスイへ質問した。
「私?幸せに決まってるでしょ」
得意気に鼻を鳴らすヒスイ。
「・・・だったら分けろ」
トパーズは、低く屈んでヒスイの背中に乗り掛かり、その頭部に顎を乗せた。
「これで分けられるものなの???」
ヒスイは不思議そうにしていたが。
(あったかいから、ま、いっか)





「・・・・・・」
ヒスイの世界を外側から見ていただけの頃は、幸せとは言えなかったと思う。
ヒスイの世界で共に生きるようになってからは――




(・・・まあ、幸せだ)




窓の外に目を遣ると、ジストが雪の中ではしゃいでいる。
「兄ちゃん!ヒスイ!雪だよっ!!」
窓辺にいる二人に気付くと、大きく手を振って。
「ジスト、犬みたいだね」と、ヒスイが笑う。




・・・幸せな、雪の日。


+++END+++

お題:管理人

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