25話 メンバーチェンジ
「元を断たなきゃ、ダメなのよ!」
と、ヒスイ。
闇牛の対処法について説明していた。
魔法で駆除して終わり、という訳ではなく、ボーダーラインを超えればまた襲ってくる・・・そういう仕掛けになっている。
闇牛の主成分は、その名の通り“闇”。
陽の光の届かない迷宮では無限に出現するのだ。
「だからねっ!二手に分かれて―」
熱くなったヒスイが、乗り掛かる勢いで迫る。
(お母さんが言っていることは、たぶん正しい・・・けど・・・どうにかならないかな、これ・・・)
マーキュリーは、思いっきりヒスイの体を押し戻し、顔を背けた。
「な・・・なに???」
「いえ、別に」
惜しみないヌードに、苛立ちが募る。
(思い出したくないんだ)
夢の中での出来事を。
ヒスイの扱いに困り果てた、その時―暗闇の中で、何かが揺らめいた。
「!?」一瞬、緊張が走るが・・・
「あ、オニキスだ」
と、ヒスイが立ち上がり、そちらへ向かう。
オニキスは、かつて闇の精霊と契約していたこともある、闇の扱いに長けた男だ。
瞬間移動とまではいかないが、一定の条件の下、闇を移動手段にできる。
「ヒスイ・・・お前、服はどうした」
男として、マーキュリーと同じ質問をするオニキス。
「服?ないよ」
ヒスイも同じ返答をしたが、さすがにそこは慣れていて。
オニキスは、すぐさま自身の上着を脱ぎ、ヒスイに着せた。
「ありがと」
「・・・変身魔法を使ったのか?」
「うん」
「・・・・・・」
ヒスイが抱えている図鑑から、オニキスはいち早く状況を察した。
向き不向きはあるものの、何に変身するかで、ある程度持続時間が決まっているのだ。そして・・・
魔力の消耗具合にもよるが、同じものに変身するには、しばらく時間を置かなければならないという制約がある。
(ただでは済むまいと思っていたが・・・)
皮肉にも、足を運んだ甲斐があった。
「交代だ。オレが行く」と、オニキスが申し出る。
「え・・・でも・・・」
ミノタウロス戦で活躍する予定だったヒスイが渋るも。
「そうして貰ってください、お母さん」
マーキュリーに、ここぞとばかりの笑顔で見切りをつけられる。
「すぐにでも、あーくんのところに戻らないといけないので」
「・・・わかったわよ」
ヒスイは口を尖らせ、不服そうにしていたが、メンバーチェンジを承諾した。
「じゃあ、私は後からこっそりついていくから!」
「・・・・・・」「・・・・・・」
それはそれで、嫌な予感がする。
(こんな時に・・・コハクは何をやっている)オニキス、心の声。
いつもなら、ヒスイにべったりだというのに。
どうも腑に落ちないが、とりあえず、ドラゴン変化。
マーキュリーと共に暗闇を抜け、アイボリーの待つ通路へと出た。
「チビドラ!?」
途端に、アイボリーの声が裏返る。
「超デカくなってんじゃんか!!」
変身魔法は、遺伝子に含まれる情報が反映される。
従って、オニキスが化けたドラゴンは漆黒。
更に、双子達より大きく、かなり強そうだ。
ギャップに驚き戸惑うのも無理はない。
「どうしちゃったんだよ・・・お前・・・」
チビドラ、改め、デカドラを凝視するアイボリー。
「・・・・・・」
デカドラ=オニキスは、だいぶ居心地が悪そうだ。
そこでマーキュリーが。
「進化したんじゃない?」
「進化!?マジで!?すげぇ!!!」
適当な嘘だが・・・アイボリーは納得したようだ。
双子と新たな一匹で、再開された迷宮探索。
「やっぱあの道が正しいと思うんだよな〜・・・」
と、アイボリー。
あの道、とは、闇牛の出現ルートである。
「うん、そうだね」
マーキュリーも相槌を打ち、ヒスイの話を思い出す―
遺跡や迷路で使われる、セキュリティ用の自動魔法陣。
侵入者に対し、半永久的に作動するが、陣形を崩せば、闇牛の出現を止められる。
恐らくその先に、標的たるミノタウロスがいるだろう、と。
「・・・それなら、闇牛の足止めは僕が」
マーキュリーは、腰に携えていた武器を手に取った。
それは・・・『鞭』だ。
準備運動とばかりに振り翳し、地を叩くと、攻撃的な音が通路に響いた。
「まーはさ、インテリキャラに決めたんじゃねぇの?メガネとか掛け出したから、そっちの方向でいくのかと思ったぜ」
「そうしたいのは山々なんだけど」
(お母さんが・・・)
付かず離れず、今も近くをウロチョロしているであろうヒスイが、何かやらかしはしないかと、気になって気になって、仕方がないのだ。
(早く試験を終わらせて、あのひと回収しないと・・・)
すると、アイボリーが言った。
「足止めは俺がやる。実は・・・秘密兵器があんだよ」
「秘密兵器?」
「おうよ!」
まあ、見てろ!と、自信あり気に、例の通路に引き返すアイボリー。
角を曲がり、間もなくして、
ドドドドド・・・!!!
先程と同じシーンが再現された。
「よっしゃぁ!!」
アイボリーは自身に喝を入れ。
ポケットから秘密兵器を取り出し、構えた。
それは・・・『小瓶』。
中にはアイボリー本人の血液が入っている。
「コハクのパクリ技!!名付けて―」
「ブラッド・ダイナマイト!!」
熾天使の血には、絶大な退魔効果がある。
※番外編「失敗は萌えのもと」参照。
昔、コハクが使っていたのを、アイボリーは覚えていて。
自分も、と、考えたのだ。
コハクと同じ金髪なので、熾天使の血が濃いことを疑いもしなかった。
くらえ!!と、威勢よく小瓶を投げ込む・・・が。
「なんで効かねぇんだよぉぉぉ!!」
闇牛の群れから、再び逃げる羽目になり。
オニキスとマーキュリーは、壁を壊して、隣の通路に避難していた。
「・・・・・・」
(今のは・・・どういうことだ?)
目を疑うオニキス。アイボリーの戦い方は間違っていない。
コハクほどではないにしろ、熾天使の血なら、先頭グループくらい簡単に殲滅できる筈なのだ。
同じく、マーキュリーも。
「・・・・・・」
(どういうこと?今の・・・おかしいよ・・・)
一方、こちら、ヒスイ。
「あれ?ここどこ???」
ひとり、見事に迷っていた。
「それにしても・・・私・・・何しにきたんだろ・・・」
不完全燃焼のまま、通路を彷徨っていると。
「ヒスイ」
愛しい声に呼び止められた。
振り向くと、そこには・・・
「お兄ちゃん!!」